雪代に浸る

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どうやら驚いた顔のまま少年に見つめられていたから思わずアレクもじっと少年を見つめてしまっていたようだった。 「……は?」 挨拶をする間もなく振られた言葉の意味を理解しきれず、目の前のクリスと呼ばれた少年にもう一度視線を戻す。 先程の多分室長と思われる人物からの指示を考えると、目の前に居るどう見ても未成年の少年はどうやらここの手伝いをする下仕えではなく、クリスを指導できるくらいの歴があるれっきとした成人した正式な職員らしい。 「……わかりました。クリスです。よろしくお願いします」 ひらひらと手を振りながらアレクが入りかけていた扉から出ていく室長に、目の前の少年にしか見えない人物……クリスは返事をすると、アレクに向かいさらっと簡単に自己紹介してそのまま、採取瓶を大切そうに抱え歩きだした。 「あ……アレクだ」 同じ魔術師団とはいえ魔術騎士団の着任だってもっとまともだった。が、取り敢えず、状況を判断するためクリスの後をついていく。 スタスタとクリスは先程奥に見えたガラス張りの実験室らしき部屋に入り、さらにその奥に作られた魔術金庫の扉を開けた。 魔術金庫はマジックバッグの金庫版だ。容量はより魔力の多い魔術師によってより細かい魔術式で作られたものほど非常に大きく、中に入れた物の時間をその時からストップさせて長期保存が可能。扉は登録者しか開けられず、転移門に近い性質でいざと言う時の為に別の場所にバックアップを置いておける。王家の宝物庫もこの仕組みを使っているくらい安全性は高い。太古の偉大な魔術師が滅んだ祖国を嘆き悲しみ魔術金庫に隠したという都市伝説だって残っているくらいだ。
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