雪代に浸る

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魔術金庫の中に入ると事務所や研究室の何十倍も広い室内の見渡す限りの棚に採取瓶が区別分けされ置かれていた。 通路横の棚に置かれた採取瓶の中身を見ると全て透明な水にみえる。 「急な1ヶ月の外回りの話だけど大丈夫ですか?」  少し進んだ棚に大切そうに採取瓶を置くとホッと息を吐いたクリスはキュッと結んでいた唇から力を抜いたのかふんわりとした表情でアレクにたずねてきた。 「え?」 「寮にお住まいの方じゃないですよね?明日から1ヶ月家をあけるって家族とかに伝えなくて平気ですか?」 「あ、魔術騎士団で演習や遠征に行っていたから、多分……」 「そうなんですね。良かった」 1ヶ月という期間に一瞬驚いたものの、アレクは常日頃から留守がちだったし、留守の間の指示は帰ってから侍従に伝えれば平気だろう。それよりも心底良かったという表情を見せるクリスの紅く濡れた唇から目が離せなくなってしまいそうだった。 魔術金庫から外にでるクリスに連れられ事務所に戻ったアレクは、明日から一緒に旅をする、机に座っていた3人の職員の元に案内されて朝から初めてやっとまともな挨拶を交わした。
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