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(Heat…いや、似てるが、全くフェロモンが発生していない…、これで、こいつがΩ?んな馬鹿な)
一瞬で、今まで読んだ論文を頭の中で総浚いする。
「俺、フェロモン、出ないん、で…」
(…フェロモン分泌不全のHeat?…本当なら、世界遺産並みにレアだな)
「サイガ、血液検査の仮オーダー、ベース型、現状のPr発生値とPrAV、以上、最短で何分だ」
「28分です」
「お前、今まで同じような症状で医療機関にかかったことは?」
「…な、い」
「注射針のアレルギーは?」
「な…」
「サイガ、正オーダーだ。大至急」
かくして。あっという間に採血を終え、検査数値の推移を見つつ、ほとんど意識のない如月の脚の間を撫でた御堂は半眼になった。
(…マジか。キてんな)
「ΩA+…、分泌不全は本当だな。サイガ、点滴用意、YA01を500、15分で落とせ」
「まだ、結果が確定していません」
「問題ない。幸村、利き腕は右?…左か。右に刺すぞ」
「………」
検査開始から10分で、既に、ほぼ如月の意識はない。
御堂は、デスクにあるマウスの形状を見て右腕を取った。開いてあるノートPCにベタベタと貼ってあるステッカーは、お世辞にもセンスがいいとは思えない。
素早く血管に針を入れ、薬を落とし始める。
「あのー、大丈夫ですか」
京都がドアの向こうから声をかけると、御堂はちらりと視線を上げた。暫く時計を見、如月の頬に掌を当てると
「もう少し待ってください」
数分後、薄らと開いた如月の瞳に気づき、御堂はもう一度膝を折った。
「わかるか」
眩しそうに閉じた瞼と僅かに動いた唇を見て、御堂の薄茶色の瞳が細くなった。苦しそうな如月に、
「…キツそうだな」
御堂は低く呟き、そっと如月の首元の髪を避けた。頸に傷はない。
「触るぞ」
とりあえず言い置いて、足の付け根に触れれば、明らかにHeatの反応を起こしている。
(パートナーはいないのか。…誰かとヤっちまえば楽にはなれるんだろうにな。本人にその気がないし、フェロモンの分泌がないから強制的に相手を誘う手段も無く…体だけが反応して体内に熱だけが篭ってんのか。高熱出してるのと変わらねー訳だ。おまけに、アンカーの効きも悪いときた…。難儀な奴だな)
「サイガ、02の200を輸液の残りに追加しろ」
「一部成分の重複投与になりますが、よろしいですか」
「問題ない。早くしろ」
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