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「畏まりました」
御堂の指示とアンドロイドの対応は的確だった。数分後には、浅かった呼吸が元に戻り、如月は通常と何ら変わらず、座っていた。
「…何だったんだ、今の…」
放心状態で如月が呟けば、
「Heatだろ。ちょっと特殊だけどな。経験ねーのか、お前」
「無いです、けど。…御堂先生?」
「何」
「…俺のこと、お前呼ばわりしないでもらえます?」
「そりゃ悪かったな。幸村?だっけ?昨日、うちの前でうろついてた奴だろ?」
「うろついてない!帰り道なだけ!」
「で?もう、大丈夫だな」
御堂は既に電子カルテの入力をしながら喋っている。
アシスタントアンドロイドのサイガも、医療器具や消耗品の撤収を完了していた。
「熱感も治まりましたね。痛みも、痺れも無いですか?」
サイガに穏やかに問われ、え?、と如月は自分の身体を見下ろした。
確かに、
「…無い…」
「もう一度聞くぞ、幸村?Heat起こしたことはないか」
「…一度だけ、高校の時、同じようなことはあったけど。解熱剤で熱さげて終わってる。周りにα型のやつもいたけど、俺からは全くフェロモン感じなかったって言ってた。それ以降は、無い」
「あっちは、どーなってた」
「あっち?」
「生殖機能」
ぼ、と如月が赤くなった。
「ど、どどど…どうし」
「医師としての問診だけど。他意はねぇよ」
いかにも興味なさそうに、しかめっ面で聞いてくる御堂に、
「…少し、…前が反応しかけてたくらいで、…解熱剤ですぐに治まったから、Heatだなんて思わなかった」
「天然記念物並みだな、お前…」
「は?」
まーいいわ、と御堂は電子カルテを仕舞うと立ち上がった。
「薬出してやるから、帰りにうち寄れ。クリニックより、そっちの方が近いだろ」
「いりません」
ぴた、と御堂が動きを止めた。
「何で」
「いらないからです」
「だから、何でいらない?外で同じ事が起こったらどうするつもりだ?万が一フェロモン発したらどーすんだ。犯罪者を量産して、自分も辛い思いをするつもりか?」
黙り込み、ちら、と如月は御堂の顔を見ると、
「…どこへ、行けって」
苛…。
御堂が半眼になった。
「俺ん家。昨日、お前が突っ立ってたところだよ。保険証貸せ、スキャンする」
「はあ」
保険証を手渡す如月に幾らか戸惑いながら、御堂は必要事項の確認と保険証のスキャンを済ませると、さっさと建物を後にした。
「…んだ、あいつ…。調子狂う」
御堂にとって如月は、今までに経験したことがないタイプだったが、何だか自分のどこかが如月に意識を向けさせようとする。
「何だか、すっごい先生入ったのねえ…」
御堂が出て行くと、京都は呟いた。
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