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「ひゃ!」
駅を出、いつものツリーを目にしながらやや気分が降下しかけた時、くしゃ、と大きな手のひらが頭を撫でた。
「すげー反応だな。驚きすぎだろ」
「先生!」
アンドロイドを連れていなく、ネームプレートもしていない御堂は、やはり一人周りとは違うオーラを放ちまくっている。
「丁度いいから、俺んとこ寄って、処方箋持ってけ」
「…はあ…」
隣で連れ立って歩くと、とにかく目立つ。
そもそも御堂がモデル並みの容姿で目立つところに「ごく普通」な如月が並ぶとどうもこちらにも視線が集まり、居心地が悪い。
す、と御堂が如月の腕を引き、如月と視線の間に入った。如月は小柄とまでは行かないが、華奢な体つきをしているためかすっぽりと御堂に隠れてしまい、他人の興味は遮られた。
「……」
如月がそっと御堂を見上げると、御堂は無表情で前を向いている。
何故か、視線を持っていかれてしまう。
「何」
視線だけを如月にやり、御堂が問いかける。
「いえ、…何でも」
「…ここ、病院ですか?…それ、何してんです」
「職場は別、ここは自宅。これは、鍵?」
看板はないものの、一見カフェにしか見えない建物の前で、前髪をかき上げた御堂を見上げて如月が聴くと、御堂はあっさり答えた。
「鍵?」
顔の高さに設置された、一見洒落た表札にしか見えないプレートに顔を近づける。
ピッ、カシャ!
キーロックが解除された。
「玄関で群がんな。入れ」
「何、今の」
「網膜スキャン」
「…一般人ですよね?」
「だからなんだ。面倒なくていいだろ。鍵は無くすから面倒なんだよ」
「なくしませんよ、普通…わ!」
引っ張り込まれるように中に入った如月は、一瞬立ち尽くした。
どう見ても、小洒落たカフェだ。
カウンターに、観葉植物に、本、雑誌。
ソファに上着を投げた御堂は、カウンターの奥から何かを取って顔を上げた。
「ほら、処方箋。まだ薬局も間に合うだろ」
「…ありがとうございます」
その様子を見て、御堂がコートを羽織り直した。
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