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まるで手品のような手際の良さだ。確かに御堂は、如月には必要以上に近づくこともなく、おかしな様子もない。今まで出会ったαのように自分に靡かせてやろう、という雰囲気はひとつも感じられない。
まだ戸惑いがちに言われるがままに向かい合って座ると、
「だから。変な薬なんか入れてないから警戒すんな。何なら、皿変える?」
「…結構です」
「はい、じゃあどうぞ。いただきます」
静かに手を合わせた御堂が食べ始める。
「い、…ただきます…」
遠慮がちにすくったスプーンを口に入れると、
(お店の味)
スパイスと野菜が絡み合った、優しい風味が口いっぱいに広がった。
「おいしい…」
思わず呟いた如月を御堂がチラリと見た。
「そ」
薄味の野菜たっぷりのスープも、オリーブオイルと塩で味付けをした、シーフードがのったシンプルなサラダも、食欲がなかった今朝までが嘘のように、箸が進む。
「先生って」
「御堂香哉斗。先生、以外で好きに呼べ。お前は俺の患者じゃない」
「はあ」
「処方した薬を拒否するよーな患者はお断り」
「どっちでもいいですけど。何で、俺なんかに食事させるんですか」
「何かの縁だろ。引越し当日は邪魔されるし、仕事では経験したことのない事態に呼び出されるし。お前の家、住所だと多分自治会同じだし。すぐそこだろ」
「邪魔してないって!…そもそも、住所、何で知ってんですか」
「保険証」
「あ」
「お前の職場とは、提携期限までの先何年かは健診やら何やらでも必然的に顔合わせるし。そう言うことで、今日からオトモダチな。御堂デス。ヨロシク」
まん丸になった瞳が真っ直ぐに御堂を見つめると、銀色の眉が僅かに動いた。
「…んだよ」
「いや、その。出来るだけお世話にならないようにします。よろしくお願いします」
「…何だそれ」
(まあ、一理あるか)
揃って、カレーを一口。
「…御堂さんて、料理上手なんですね」
「そう?店の惣菜に食いたいもんがあれば普通に買うけど。お前はしないの」
「あんま、得意じゃないです」
「そ」
さく、と野菜を噛み締める。
「御堂さんて、何歳なんですか?」
「何の面接だよ」
「嫌ならいいです」
聞いた割には如月も素気なく、御堂は苦笑してグラスから炭酸水を一口飲んだ。
(やっぱ、変なやつ…)
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