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「歳なら26。Hメディカルスクール卒、Ω専門医師歴4年。研究内容も聞きたい?」
「…いいです。俺の1年上で、もう4年も医師業してるんですか?」
「あっちの学校は、何歳でも受かりゃ大学行けるからな。日本とは違う」
「…何歳で入ったんですか」
「14。さすがに真面目に勉強するつもりで入ったから、まともに8年過ごした」
「8?」
「あっちは医学部って括りがないからな。大学4年、メディカルスクール4年。まだ食える?」
いつのまにか空になった皿を見た御堂が語尾を上げたが、如月は首を横に振った。
「も、いっぱいです」
「おっ前、青年男子の胃の大きさじゃねえな…。野菜残すなよ」
「は、い」
あわてて口に入れたレタスに絡んだ岩塩が、カリ、と乾いた音を立てた。
「甘いものは食える?」
「はい…もお腹いっぱいなので、少しなら」
「じゃあ、手伝って?助かるな」
皿を片付けてしばらくすると、小洒落た小さめの湯気が上がるカップとガトーショコラが出てきた。
「…手作りですか?」
「葉月のな。あいつのお陰で食い切れないほどあるから、食えるなら遠慮なく持って帰ってくれるともっと有難いけど」
昨日の、女性を思い出した。
「ああ、あの、綺麗な人…、奥さんですよね。お子さんも」
御堂がコーヒーを一口飲み、明らかに嫌そうに顔を顰めた。
「冗談だろ。葉月は姉貴。ホノ…、仄禾は姉貴の娘。引越しの手伝いに来てただけだよ」
手伝いと言うより、ひやかし?とぶつぶつ言いながら、香哉斗はザックリとケーキをフォークで切ると、口に放り込んだ。
「試作品らしいけど、一応パティシエだからさっきのカレーより味は間違いないだろ」
「カレー、十分すぎる味でしたけど。…お姉さん、どこでお菓子作ってらっしゃるんですか」
「le brouillard。姉貴のパートナーがそこのオーナー」
如月の目が更に丸くなった。
「…それ、俺週4で通ってますよ」
「マジかよ。俺は、開店当時から食わされてるから、うまいんだかなんだか、もう麻痺してるわ」
「…どーゆー家系なんですか…」
「人生一度きり、やりたいことと欲しいものに遠慮はするな」
「…それ、家訓…?」
「そうそう」
「…あのこれ、めっちゃくちゃおいしいですけど…」
(この人、人の話聞いてない…)
「苦!」
カップから熱い液体を一口飲んで顔を顰めた如月を見て、御堂が小さく笑った。
「コーヒー嫌い?」
「…苦いの、苦手です」
「ある意味、見たまんま」
「何ですかそれ」
「かわいい」
「は?」
「あ、…悪い悪い」
ふふ、と御堂は笑い、立ち上がると持ってきたピンク色のハーブティーとコーヒーカップをすい、と入れ替えた。
「え?」
「菓子に合う、って淹れ方だけは葉月に聞いたけど、自分で飲まないから味は保証しねえよ」
確かに、ケーキととてもよく合うお茶だった。
結局、「朝か昼に食え」とカレーとテーブルパンと、サラダとガトーショコラを持たされ、
(なんなんだ、あの人は)
如月は戸惑いながら帰途についた。
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