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結局、回った腕は解けず、持ち帰られ状態の如月は憤慨気味だ。
「何すんですか!」
「…何でかな。…何か、自然に…」
御堂の自宅に着き、昨日に引き続き引きずり込まれるように中に入ると、開口一番で如月が抗議に出た。茶化す様子もなく、御堂本人も首を傾げている。
「からかうのもいい加減に…ッ!?」
ぐい、と引き寄せられたと思った途端、あっさりと唇を塞がれた。
「…⁉︎」
眼を見開いたまま、如月はある意味パニックだ。ぬるりとした舌に歯列を割られると、何かが口の奥に押し込まれ、
「ん、…っ!」
反射で飲み込んでしまい、力任せに御堂を突き放すと、御堂はくす、と笑った。
「別に、からかってねーけど」
ぽい、と手元に飛んできたペットボトルを掴むと、
「心配すんな、昨日のサプリだよ。それ、飲んどけ」
ぱき、とキャップを回し、苛立ちとともに如月はボトルの水を飲み干した。
「必死で相手を威嚇する猫みたい」
「うるっさい!」
さもおかしい、という様子で御堂が俯いて肩を震わせた。
「何ですか!」
「悪い悪い…さっきの、ごめん。…終わらなさそうだから、どうやって黙らせようかと思ったら、つい」
肩を震わせたまま、御堂は昨日のようにキッチンに立った。
「キサ?」
静かに呼ばれ、如月は顰めた顔で振り向いた。
やはりどう見ても迫力がないそれに、御堂はやはりおかしくなった。
「何ですか」
コートを直して玄関に向かう如月を見、御堂が目を細めた。
「手、洗って、食器出して。白い、右の大きなやつと、グラスを2つずつ」
2つずつ?
「帰りますから、ご自分でどうぞ」
ブーツに足を突っ込み、素気なく答えると、
「夕食の用意、あるのか」
「…御堂さんに心配されることじゃありませんから、お構いなく」
くす、と御堂が微笑した。
「まあ、そうなんだけど。こっちはできてるから、食ってけよ。さっきの悪ふざけは悪かった。お前見てたら、何でかああなったんだよ。ビーフチシューは、嫌いか?」
一瞬、如月が動きを止めた。
「…好き」
「この後の予定は?」
「別に…」
「じゃ、問題ねーな。ほら、皿取って」
結局、御堂に肩を押されてコートを脱がされ、引き戻されるとあっさりと御堂のペースに乗せられて。
「…御堂さん、αの典型ですよね。俺が一番嫌いなタイプ」
「そうなの?」
「そうですよ。自信満々で、自分の思いが全部通ると思ってて、通しちゃう」
半眼で見つめてくる鋭さの無い視線に、思わず御堂の唇が緩む。
くす。
「何がおかしいんです」
「悪い悪い…。それ、迫力なさすぎなんだよ。まあ、そうだな。自信満々だの自分の思いがってのは置いといて、自分のしたいことでどうにもならなくて、やきもきした事はねーな」
「…でしょうね」
自分に好意や好奇の目を向けない相手は、初めてだ。
御堂はふと、自分が如月に確実に興味か、それ以上の感情を持ったことに気づいた。同級生でさえ、親友の桜橋以外は常に自分の顔色を伺うか少しでも利用してやろうという意識が見え見えだった。しかも、相手がΩであれば、尚更だ。それが、この如月はどうだ。
自分に意識すら向けず、それどころか手を伸ばし、間合いを詰めれば「近づくな」と毛を逆立ててくる。それでいて、妙な危うさというか、何か微妙な雰囲気を放っている。
この如月は、御堂にとっては、初めての人種だ。
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