【α嫌いのΩ】α、連敗中

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 翌日は一転して、朝から如月は仕事に追われっぱなしだった。 「要件聞いといてください…あ、アンドロイドのことなら笹原か佐々木へ」  回ってきた内線に応答すると、途端に、京都の電話が鳴った。もともとは如月と京都がツートップで開発をした医療用のアシスタントアンドロイドだ。一体で数人の看護師や薬剤師の仕事がこなせるため、構想通りに使用できれば、廃棄までに充分に元が取れる計算となっている。御堂のクリニックはサイガを2体使用している。如月が勤務するUs.corporationが、提携の条件でサイガの使用を申し出たものだが、実際クリニック側としては充分すぎる提案だったようだ。ことに御堂はUs.corporationの担当となってから、常にサイガを連れて歩いている。彼曰く、 「足し算から薬剤の組み合わせと副反応まで網羅、昨日までの文献データを持っていて、上場企業一社分以上の数のカルテを持ち歩ける。セキュリティも万全なのに、使わない理由があるか」。  如月は今日は朝から夕方までアポでぎっしりだ。重要な連絡は別として、私用電話に割く時間はない。 「佐々ー、応接Aにプロジェクター用意しといて。古倉さん、応接CにM病院の資料3部置いといてくれる?あ、京都」  一瞬目眩がして、如月が壁に手をついた。 「キサ?…ほら、5分あるからこれ食べて。朝も食べてないでしょ」  差し出されたのは、バナナマフィンと、ミルクティーだった。 「お茶は、お砂糖入れてないからね」 「うん。さっきの電話も、ありがと…あち!」  ミルクティーを一口飲み、マフィンを齧りながら如月が切り出せば、 「ああ、御堂先生からだったわよ。サイガ、メンテ入れないとダメね。話しかけた時の反応速度が遅れてるって。薬剤に関するデータが増えた分、ちょっとそっちを圧迫しちゃったかな。気になるから何とかしてほしいって」 「…怖いな。あの反応速度の差に気がつくなんて、やっぱ常人じゃない」 「そうは言っても、あれだけあの子を現場で使ってたら、そうなるのかも。できることなら何とかしたいけど、ラボにも代わりの子がいない」 「プロトタイプじゃ、サイガには追いつかないもんなあ…」 「代わりがいないと回らないって言ってたしね。とりあえずまだ支障は出てないって言ってたから、1週間先にマニワが戻ってくるから、それまで待ってもらうことにした」 「そっか」  実際のところ、御堂のサイガの使い方は如月たちの予想を遥かに超えていた。そのため、サイガ自身の学習成果が驚くほどのスピードで蓄積され、御堂とのやりとりで彼の癖や間までもを把握しているため、往診だけでなくクリニック内でもフル稼働だ。 「あ、あと、バッテリー容量上げてくれって」 「あれで足りないって?」 「もって半日、予備バッテリーも弱ってきて足りないって言ってたから」 「…嘘だろ?どーゆー使い方してんだよ…」 「悪いけど、帰りに届けてくれる?」 「は?」 「家、近いでしょ?」  ぽろ、と如月の口からマフィンのかけらが落ちた。 「何で俺が」 「今日は直帰なんだって。明日もフルで出るから、どうしても予備バッテリーが最低一つは欲しいんだって。4個在庫があったから、2つ持ってって。あ、ほら時間だ、キサ、行かないと!」 「え、ああ、…もう〜…」  最後の一口を紅茶で流し込み、歯ブラシを取り出すと、如月は大きな溜息をついた。
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