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「いらっしゃい。うわあ、いい男だな」
にこにこしながら京都と一緒に玄関に出てきた、遥と紹介された京都の夫は、これといって特徴のない、穏やかそうな大柄な男性だった。一見「なぜこの派手な笹原と」という思いが御堂の頭をよぎったが、
「どうぞ、上がって。狭くて悪いね、適当に靴は置いてもらって…、手はそこで洗ってね。タオルは新しいものが置いてあるから、どうぞ使って」
恐ろしく周りが見える、実は抜け目のなさそうな男であることを確信した。
「そんなに警戒しなくていいよ。これ、性分だから…。効率の悪いことや、無用な諍いは避けたいタイプなんだよ。だから、いつも喧嘩は京都の勝ち」
苦笑しながら言う遥に、
「どうかなあ。私が転がされてるんじゃない?」
京都があっさり応じた。
家は3LDKのマンションで、決して広くはないが、こざっぱりと家具もまとまっていて、清潔な印象だ。
「あ。醤油切れたんだった…」
「また?…ちょっと待ってよ、キサ、まだ間に合うでしょ」
なかなか、お似合いの夫婦だ。
笹原宅では、家事一般は遥がこなしているようだった。
遥は大学の非常勤講師かつ学習塾のオーナーで、塾に顔を出すことは多くなく、時間に融通が効くから、とのんびりと自分たちの日常を御堂に話していると、チャイムが2回鳴った。
「あ、キサ、お帰りーー」
当たり前に「お帰り」と言いながら京都が玄関へ出ていくと、
「キサ、週の半分はここにいるからね。最近なかったけど、今日みたいな週末はたいてい泊まってくんだ。でも、流石にもう寒すぎるよなあ」
遥は言いながら鍋をテーブルの上の上に置いた。
「え。何でいんの」
部屋へ入るなり、予想した通りの表情で、如月が警戒心剥き出しの状態で御堂を見た。
「みんなでご飯食べよう、って、私が誘ったの」
「京都が?何で」
「ハル特製、キサの好きな、ニラ多めのもつ鍋だよー。ほら、ビール一番に選ばせてあげるから、カリカリしないの。ね、どれがいい?」
半眼になった如月に構わず、京都が何種類かのビールを示すと、何だかんだと言いながら如月は好きな銘柄の缶を手元に置いた。
御堂が見ていると、如月と京都は職場にいる時の雰囲気とは全く違い、本当の姉弟のようだった。一歩引いてにこにこしながらやりとりを聞いている遥も、保護者のように肝心なところだけ穏やかにツッコミを入れている。
(いい家族、って感じだな)
結局、御堂がいてもそんなに特別扱いをすることなく、笑い声とともに、穏やかに鍋は減っていった。
「…もー…お腹いっぱい…お酒もいっぱい…」
もう満足、という様子でソファに倒れ込んだ如月に毛布をかけてやりながら、遥は如月の肩を軽く叩いた。
「キサ?御堂さんに、話してもいいよな?」
「んー…」
むずがる子どものように、クッションに顔を埋めた如月が唸る。焦茶の猫っ毛がサラサラと流れた。
「君の、今までのこと全部。御堂さん、キサがどうしてそんなにαに壁を作るのか聞きたいんだって。僕と京都で話してみてもいい?」
「うんー…」
「うん。違うところがあれば、ちゃんと言えよ」
ほぼ目は閉じている状態だが、如月は肯定したものだと遥は判断したようだ。
「大丈夫か?」
怪訝そうに御堂が言うとくす、と遥は頷いた。
「うん、大丈夫。これでもキサはね、ちゃんと聞いてるし、ちゃんと明日になっても覚えてるよ。さ、少し片付けてから話そうか。御堂さんは、コーヒー?紅茶?ハーブティー?」
「私、洗い物する」
「コーヒー…、ストレートがいい。ああ、テーブルの片付けは俺がするよ」
言いながら既に動き出し、テーブルの上をさっさと片していく御堂に、
「手際がいいなあ」
湯を沸かしながら、遥が目を丸くした。御堂が使っているものと同じメーカーのドリップ用のケトルだ。
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