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「普通、一度でそこまで下がるだろ」
そっけなさすぎる相手の物言いに思わず如月が半眼になったが、所詮、童顔の大きな瞳が瞼に半分隠れたからと言って、迫力があるわけではない。銀髪の彼は、当然それに全く動じる様子もなく、むしろ如月を押し除けるように中へ入っていったが、二人がすれ違うほんの一瞬。
「……」
何かに気づいたように、ちらりと銀髪の青年が視線だけで如月を見た。如月本人はすでに自宅の方に視線を向けていたためか、それには気づいていない。
「葉月ー、そいつら、全部こっち持ってこいよ。ホノ、そこ登るな、…おい、危ないって!うわ‼︎」
きゃあ、と楽しそうに幼稚園くらいの少女が積まれた段ボールの上から青年にダイブしたのを見て、慌てて段ボールを放り投げた青年が受け止めた。
「おっまえ…、危ねーだろが!うわ、中壊れてねえ?あーーーもうー‼︎葉月、ホノ何とかしろよ‼︎」
向こうにいる、ショートカットの、やや気の強そうな美しい女性が彼に向かって頷いた。やや厚手のそれでも体の線が出るハイネックのニットに、細身のカラーパンツとブーツ。首から肩にかけて巻かれたボリュームのあるストールのおかげで、これだけの寒さも気にならないようだ。
サラサラしたアッシュの髪の下に、銀色に近い髪が見える。
「あは。ホノー、良かったねえ。そっち、もっと高いよ」
けろりとして彼女が言えば、
「アホか‼︎」
頭から湯気が出そうな勢いで、青年は苛立たしげに叫んだ。
(家族三人か。若い夫婦だな。…引越しか。いい雰囲気にリノベーションしたわけだ)
体の向きを変えつつ、如月は思わずまた彼らに目を向けていた。
女性が大きな段ボールを抱えて入っていく。
「あ、ツリーは外な」
「バカ言わないで、あんたが持ってきなさいよ。あんな生樹、重くてもてるわけないでしょうが‼︎」
「お前、力あんじゃん。たまには役に立てよ」
「うっさい、炊事してやったでしょ!」
一瞬だけ青年は黙り込み、次の瞬間にはにっと笑ってみせた。
「ホノ、ツリーのデコレーションすっか」
「お外で?」
「そ」
「やるー‼︎」
「おいこら、走んな!」
きゃあきゃあと幼児の声も入り混じり、楽しそうだ。
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