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白衣も着ていないが、ネックストラップにIDプレートと医師会のプレート、隣に医療用アンドロイドを連れている事で医療関係者だとわかるが、スタッフに彼を知っている者はいない。
全く愛想のない彼は、大股で真っ直ぐに如月の部屋の前まで歩いてきた。右手の人差し指と中指で自分のIDカードを摘み上げ、天井のセンサーに反応するようにかざすと、ピピ、と認証の音が短く鳴った。
「中央医師会所属、アルビクリニックの医師、御堂です。IDを確認くださったら、どなたか案内願います」
滑舌の良い、耳障りの良い声がフロアに響いた。
『御堂医師のIDを確認しました』
認証のアナウンスが部屋に響いた。
「…本当に医師なんだ」
「同感だけど、声デカいわ、あんた」
「あた!」
佐々木の頭を叩きしな、ぴ、と京都がリモコンで如月の部屋のロックを解除した。
「社員番号21013の幸村如月です、お願いします」
「はい。失礼します」
振り向きもせずに御堂は中へ入ると、御堂は如月が倒れているソファにまっすぐ進み、僅かに眉を上げた。
如月の傍で膝を折ると、ぐったりとした細い腕を取り上げ、脈を見始めた。
「メディカルIDは」
「ID、は、デスクの、…引き出し…」
「サイガ、スキャン。俺のコードで医師会のDBに接続しろ。血液型と既往症」
アンドロイドがセンサーでIDのチップを遠隔で読み取った。
「幸村如月、男性、ΩA+、既往症無しです」
「は?」
さらにその御堂は険しい表情を作った。
アンドロイドから即座に差し出されたマスクを受け取りつつ、
「アホか、そりゃ別のカードが混在してるだろ。フェロモン全く出てねーよ。再確認」
毒づいた。
「幸村如月、男性、ΩA+、既往症無しです」
「んなはずが」
「…ほん、とですって…あっつ…」
「は?」
如月は苦しそうに身体を捩った。
「Heat…?」
「…サイガ、Frシールド貸せ」
サイガから受け取った注射器を自分の腕に突き刺し、薬を押し込むと、御堂は怪訝そうに如月を覗き込んだ。
御堂香哉斗は生粋のαだ。何なら、両親ともαと言う、女性αが圧倒的に少ない現在希少この上ない出生で、Wαとも呼ばれる人種である。
αは、Ωのフェロモンを感知すると、本能的にそれに対する抵抗ができない場合がある。ヒートを起こしたΩは確実にαに影響を及ぼすので、注射はその対応だ。
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