壺の中

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 うっすら微笑んだユリちゃんは再び、前の布団で眠る人物の白い布を見つめる。 「せっかく結婚したのにね……どうして先に、こんなに早く逝ってしまうのかな」  ユリちゃんの両目から、つっと涙はこぼれ頬を伝った。 「……あの、石田君? は、どうして……その……」  死んだの、と私ははっきり聞けなかった。 「行方不明になってたんだ、一か月くらい前から。その日の朝もいつもと変わらずスーツを着て、会社へ行ったものだとばかり思ってた。様子もおかしくなかったし、いつもの宏樹だったから。だけど、その日からずっと帰ってこなくて、警察に相談して、会社にも電話して……そしたら、宏樹……その会社に勤めてなかったの。そんな人は知らないって言われて……」 「はっ、えっ? 勤めてない……?」  涙を流し続けるユリちゃんの視線は白い布から外れ、どこを見ているのかわからないほどに、うつろだった。 「そう。七年間、ずっとね。平日は毎日、朝七時半にスーツを着て家を出て、夜八時だったりに帰ってくるのよ。確かに、仕事の内容についてくわしく聞いたことはなかったけど、毎月、決まった日に、ちゃんと銀行の口座にはお給料が入っていたし……その会社に勤めているとばかり思ってた。宏樹は嘘をついていたのかな? 私、全然信じられなかったけど、警察も、勤めていないのは間違いなさそうだって」 「そんな……じゃあ、石田君は毎日どこへ行ってたんだろう?」  毎月決まった日時に会社から給料が振り込まれていたのに、その会社に勤めていないとは……そんなことありえるのか。  あるとすれば恐らくは、振込人の名義をその会社名に似せるようにして、石田君が自らの銀行口座に自ら毎月振り込んでいたということだろうけど、その給料は一体、どうやって用意したのか……  それに、石田君は毎日、何をしていたのだろう。
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