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いつの間に、背後にユリちゃんは立っていて、畳に座る私を目だけで見下ろしている。
そして、浴衣のような白装束を着た三人の人が入ってきた。二人がおばさんで、一人はおじさんだが、そのおばさん一人の顔をなんとなく、どこかで見たことがあるような気がするが、思い出せない……
「実理ちゃん、おまたせ。もうすぐ始まるから」
「……えっ? あの、私は」
「そこにいると邪魔になるから、実理ちゃん、こっちに」
そろそろ帰ります、と言いたかった。でも、とても言えなかった。
ユリちゃんは私に何か言わせる隙のない、低い声で言うと、私の手を引いて布団から遠くに連れて行った。
「そこで座ってて」
私はまた畳に座らされる。
さっきまで私が座っていた辺りに、白装束の三人は座っていた。おばさん一人を前にして、その後ろに控えるように二人が座っている。三人はお経なのか、何かブツブツ唱えだした。
私の位置からは、ちょうど三人の背中が見えた。
「こんばんは、この度は……」
「どうも、ありがとうございます……」
少しして、開けられた障子から続々と人が入ってくる。一人ずつ障子を入ってくるたびに、ユリちゃんは丁寧に応じている。
客人は皆、わりと普通な格好だった。喪服を着ているわけでなく、ジーパンだったりTシャツだったりといったカジュアルな服装で、年配の方から幼稚園に通っているような小さな子供まで様々だ。
最初に入ってきた上品な感じのおばあさんが私の左隣に正座した。
ピッチリくっつくように座るので驚き、ちらっと見ると目が合ってしまった。気まずいので小声でどうもと言うと、おばあさんは微笑んで頷いたので、私はまた自分のひざの前の畳を見ながら耳をそばだて、周囲の様子をうかがう。
次に入ってきた高校生ぐらいの男の子が、私の隣に座るおばあさんの隣に座った。その次の小太りな中年男性は、またその男の子の隣に座り……
そうやって入ってきた人々はどんどん隣へ隣へと座っていく。最後に、私の右横にかわいらしい女子大生風な女の子がピッチリと詰めて座った。
ユリちゃんはもうすぐ始まるから、と言っていた。一体、何が始まるのだろう。
お通夜か何かわからないけどこんな深夜に、こんなに大勢が集まるなんて……いくら葬式に行ったことのない世間知らずな私だとしても、さすがにこれはないんじゃない? しかも、皆ラフ過ぎやしないか? 私とそんな変わらない服装で……もしかして、皆うっかりジュースを買いに出てきて間違って来ちゃったんじゃないの、私みたいに。もう、むしろそうであってくれ。今、私にとっての唯一の救いは皆がラフな格好であったという、この一点につきる。そう、それ以外に、私にとって救いなどない……
「はい、これ」
トントンと左肩をたたかれ、おっと我に返る私は、おばあさんを見た。
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