壺の中

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 一階に降りるまでの間、どこの自販機に行くのかもう一度考えを巡らす。  部屋でさんざん考えたが、やっぱり坂を下ったところにある、歩いて五分はかかるが十分はかからない、あそこにしよう。本当はもっと近くに一台、自販機はある。だが、それだと近すぎて散歩にならないだろう……  たかだか近所の、それもすぐ近くの自販機に行くだけなのに、こんなにうだうだ考えてしまう。今までもずっとこんな感じだったように思う。  外灯もまばらな住宅街の細い坂道を下りながら、私は今までをふり返る。そこからまた、うだうだと決して答えの出ないだろう明るくはない事柄を考え、いつものように偏頭痛をよびこむ。  頭が散々痛くなってから、またしょうもないことを巡らせてしまったとさらに後悔し、気分は落ち込んでいく。  うつむきながら歩き坂を下り終えると、片側二車線の広い道につき当たる。  右に曲がって、ゆるやかな坂道をちょっと上ると、右手に目当ての自販機は現れた。  閉まっている個人商店の前、三台並ぶ自販機の真ん中、赤い自販機の前に立つ。  マンションの通路の明かりより、より一層、自販機の照明は明るすぎた。  ウッとなって二、三度目をしばたたかせた。  ヴェックション!!!  とんでもなく大きなくしゃみが出てしまった。  くしゃみは最近もしたことはあるが、ここまで大きなものは久々で自分で驚いた。  でろん、と大量にたんのような鼻水が唇のすぐ上にまで迫ってきたのがわかる。  反射的に右手で鼻と口の間をおおった。ちょっと空間を開けたつもりだったが、粘度のある鼻水は人さし指の根元のところにピチャッとひっついた。  このまま手を離そうものならビヨンと確実に伸びる。
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