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なんて、なんて情けないのか。無性に悲しい。
悩んで、悩んでジュース一本を買いに、しかも誰と接するわけでもない自販機に来ただけで、こんなにもむなしい気持ちになるのか。
どうするんだよ、この右手。拭くものなんて持っていない。あんなに財布と家の鍵を確認したのに、なんという盲点だろう。
もういっそ、このまま手を離さず家まで帰ろうか……
「あの、大丈夫ですか? よかったら、これ……」
男性の声だった。私の左側の背後から、ポケットティッシュが差し出されている。
深夜の自販機前で、鼻だけでなく涙も垂れ流しそうになっている、よれよれの私に声をかけたのだ。
なんと勇気のある行為だろう。
本当に私に対するものなのか。逡巡するが、すぐ背後をとられ、恥ずかしくどうすることもできないので、素直に左手でそれを受け取った。
「す、すみません……ありがとうございます」
新品のポケットティッシュだった。
右手で鼻を押さえる私は、それをもてあます。左手はカサカサと音を立てるしかなかった。
「あっ、開けますよ。ちょっと、貸して……」
後方から手が伸びてきて私からティッシュを受け取った。パリッとビニールのミシン目が裂ける音がして、再び私の手に握らされた。
丁寧に一枚、開いたところからティッシュは飛び出している。
だが、私は気付いていた。やっぱり左手だけでは無理がある。
うつむいた私は思い切って右手を顔から離すと、素早く左手に持つティッシュをピッと取り、右手の人さし指を拭きつつ、鼻をおさえた。そのまま軽く拭いて、再び右手を顔から離し、もう一枚出して鼻をおさえる。
「……すみません。ありがとうございます……た、助かりました」
ふり返り、左手に残るポケットティッシュを差し出した。
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