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「おやすみ」と彼女が言ったその息で私の静かな夜が始まる。 カバンからノートパソコンを取り出して机上に置く。電源ボタンを長押しする。ぽっと明るくなる画面。パスコードを叩くと、シンとした夜にパチパチパチパチと音が四つ落ちた。システムが立ち上がるまでのあいだ、私は机の脇にあるカーテンを少しだけ開く。 東山の裾野にあるこの寮からは京都の街が一望できる。眼下に広がる家々、その向こうにぽっかりと浮かぶ京都タワー。十時過ぎの夜の街には、明かりが粒になってぽろぽろ転がっている。 私はこの景色を見るたび気が遠くなる。あの明かり一つ一つに、人生というたっぷりとした質量がある。私の一生を通しても、きっと関わることのない光たち。
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