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「あの僕と付き合ってもらえませんか?」
彼のなだらかな関西弁から、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
関西地方にあるこの錆びた漁師町で、これほどなだらかに言葉を発する人はそうそういない。ボケとか、カスとか、しばくぞとか、とにかく激しく暴力的な物言いが多いこの地方の言葉を初めて聞いた人は、だいたい機嫌を損ねるか、怯えてしまう。
けれど、同じ方言を使う彼の言葉は、いつも波を撫でるように優しい。
「は?なんて?」
とはいえ、あまりにも突拍子のない愛の告白に、私はそう言うしかなかった。
「いや、だから、僕と付き合ってください。って言うとるんです」
嘘にしては、面白みがなかった。
また、彼の顔に悪意もなかった。彼の目は、真っ暗で海底のような夜でも、力強く光っていて、それは私が初めて見る類の目だったから、本気だということはすぐにわかった。
三十歳の私にこんなサプライズがあってもいいのだろうか?と私は密かに喜んでいた。しかし、彼が十八歳だと思いだして、その身を暗い海に放り投げてしまいたかった。
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