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幸せ家族
俺の幼少期の記憶の中で、一番くっきりと思い浮かぶのは、大勢の人の前で太鼓を叩いたことと、飛んだことだ。
ジャンプかって? そんなもんじゃない。
フワフワと身体が宙に浮いて……
おっと、そんな白い目でみないでくれ。俺は夢想家ではないし、昔見たテレビのドラマやアニメが現実とごっちゃになって、本当に起きたこととして記憶しているわけでもない。
原因は俺の親父、宮田寿喜にある。
めでた過ぎる名前が性格に作用するのか、とにかく祭り好きで、興味を持ったものには突き進むタイプ。そのせいで度々失敗とトラブルを巻き起こすものの、破天荒すぎて周囲の語り草になるもんだから、本人は話題を提供したぐらいにしか思っておらず、反省しない。
ー--ったく、ほんといい性格してるよな。
それで、何が起きたかというと、あれは俺が3歳の頃、今俺が中学一年生だから、かれこれ10年前になる。大型店舗で夏祭りが開催された時のことだ。
入り口を入った途端に、ドンドコドコドコと太鼓の音が聞こえるのにつられた親父は、妻の実穂が女性服の店を見たいというのをスルーして、俺を抱えて走り出した。
「陽翔祭りだ! 血が騒ぐな」
「たいこ。たいこ」
「そうだ。お家でやる太鼓の鉄人じゃなくて、本物が見れるぞ」
細長い大型店舗の中央通りのほぼ真ん中に、大人の腰の高さに組まれた櫓のステージが見えてきた。
真ん中に大太鼓と数面の小太鼓、ハッピを着た男たちが、踊るように太鼓の間を入れ替わり、バチさばきも鮮やかに腹に響く音を打ち出している。親父に抱えられた俺は、見えないバチを握り、太鼓のリズムに合わせてバチを振っていた。
周りの客たちが、かわいいと笑顔になり、前を空けてくれる。親父はすみませんねと言いながら、ステージの前に移動して、俺を床に下ろした。
その頃は知らなかったが、和楽器を使ってライブを行う人気上昇中のグループだったらしい。太鼓のパフォーマンスが終わった時、ボーカルの女性がエアー太鼓を叩いていた俺に目を止め、叩いてみる? と聞いた。
俺は舌ったらずの声で「やゆ」と返事をして、親父と一緒にステージへ。バチを受け取った親父は、和楽器グループが始めた演奏に合わせ、最初はリズムを取るために軽く打っていたのを、曲調を掴むと同時に気持ちを込めて打ち込み始め、俺もそれに倣って打つ。結構速いテンポの曲に合わせて、親父の見事なバチさばきが炸裂し、俺も小さな腕で、無心になって小太鼓を打った。
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