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夏祭り
夏祭りの当日は、早朝から気温が高く太陽がさんさんと照り輝いていた。この暑い中で櫓を組む作業をしないといけないなんてうんざりする。
朝食の席についた俺は、朝から湯気の立つ味噌汁に、マジかとため息をついた。
既に化粧を終え、普段より数倍きれいになった母親がくすりと笑う。
「暑いところで作業をするんだから、塩分を摂っていかなくちゃ。お父さんが帰って来れれば、陽翔に手伝ってもらわなくて済んだんだけれど、出張だっていうから、ごめんね」
出張自体も怪しいもんだと思ったが、俺は黙って味噌汁を飲んだ。
俺が親父に送ったメッセージには、すぐに既読がついた。
俺たち流に言わせてもらえば、送られてきたメッセージを速攻で開いて既読マークをつけるのは、余裕のないガツガツした人間で、すぐに返事を返すのも、押しが強いと敬遠されてしまう。
その暗黙のルールを初めて知ったときには、本当はすぐに読みたいくせに余裕ぶって時間を空けるとか、どんな見栄やプライドだ? ってうんざりしたけれど、慣れれば常識になってしまうからおかしなもんだ。
親父はそのタブーを二重に犯した。つまりすぐに返事を送ってよこしたのだ。
『知らせてくれてありがとう。母さんがメッセージをくれたけれど、今年は役員で体育委員も兼ねているらしいね。櫓組みもあるだろうから、何とか仕事を調整したいと思う。陽翔と話もしたいし』
笹木の言葉を借りて、メッセージを送る決心をしたとは言え、少し勇気も要ったし、沢山の不安もあった。もちろん怒りや不信感はまだ残っているものの、すぐについた既読後のあいつらしくない丁寧な返事にも、無視をし続けた俺のアクションを待っていたという親父の真剣さが伝わってきて、話しを聞いてもいいとさえ思った。
だから、俺は感じたんだ。俺たちが取っているポーズは、かっこいいどころか、他人との距離感が分からず、ただ自分を守りたいための言い訳で、本心で語り合うことを邪魔しているんじゃないかって。
ついでに無視していた親父からのメッセージに目を通すと、不快な思いをさせたことへの謝罪と、誤解があるようだから説明したいという言葉の嵐が押し寄せてきた。
言い訳なんか聞きたくはないけれど、帰る場所を作るというのは、こういうことなのかなんて思ったりして、少し大人になったようで、くすぐったさを覚えた。
———それなのに……金曜の夜遅くに、明日の土曜の出張がどうしても、相手の都合で振り替えることができなかったというラインが来てがっかりだ。
どうせ最初から来るつもりは無かったくせに。
出張とは偽りで、あの女と旅行でもでかけているんじゃないのか。
考えるほど、不愉快と怒りが募り、胸のざらつきが増す。
俺は、父親を頭から抹殺することに決めて、ラインの画面からもアイコンを消して、ベッドに横になった。
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