夏祭り

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 おかげで今朝は早く起きなければならないのに、目覚ましが三回なっても起きられず、カーラーを巻いた母親に叩き起こされるはめになった。  親父が戻ってこないのに、ひょっとしたらいなくなってしまうかもしれないのに、普段よりきれいにしている母親を見ているのに耐えられなくなり、朝食を口に掻きこんだ俺は、先に会場に行くと母親に告げて席を立つ。ペットボトルとタオルを入れたボディーバッグを肩から背中にかけ、徒歩15分ほどの公園へ向かうために外に出ると、家の前を結衣と義父が通り過ぎるところだった。 「あっ、陽翔。ちょうどよかった。一緒に行こう」 「ああ。中井さん、お休みなのに、お手伝いしてもらってすみません」  何かおばちゃんの挨拶みたいになって照れてしまい、語尾がごにょごにょ口に籠ってしまったけれど、中井さんは笑顔で首を振りながら言った。 「陽翔くんこそ、中学生なのに大人の中に入ってお手伝いするなんてえらいね。いつも結衣の面倒をみてくれてありがとう」 「いえ……」  中井さんと結衣は血が繋がっていないのに、家族なんだなって思ったら、鼻の奥がツンとした。  中井さんが道路側を歩くと言ったけれど、結衣と陽翔は場所を譲らず、中井さんを真ん中にして、いざとなったら町人の視線から守るつもりで歩き出した。  道の角に来ると、新聞を取りに家から出てきたおばあさんと目があい、思わず身構えるも、かけられた言葉は優しいものだった。 「結衣ちゃん、お父さんとお出かけかい?」  結衣が弾けたような笑顔を見せる。 「お祭りの櫓を建てにいくの。夕方18時スタートだから、夏祭りにきてね」 「あ~。そういえば笹木さんから聞いていたわ。中井さん、役員じゃないのにお手伝いしてくださるんですってね。有難うございます。この辺は年寄りばっかりになってしまったから、若い方のお手伝いは本当に助かりますわ」  陽翔は内心、やるじゃんあのじいさんと思ったけれど、褒められた結衣の義父とは対照に、役員なのに手伝いもしない父親を思って肩身が狭くなる。そんな陽翔の背中を中井が押した。 「僕はいい歳なんで、褒めるなら、まだ中学生なのに手伝いをしてくれる宮田さんの息子さんを褒めてやってください」 「もちろんよ。笹木さんが、陽翔君は気遣いのできるいい子だって褒めていたわ。ありがとうね。今日はよろしくお願いします」 「ありがとうございます。頑張ります」  小学生かよっていうくらい、語彙の少ない間抜けな返事を返すと、陽翔は赤くなった顔を見られないようにその場を足早に後にした。
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