夏祭り

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 公園には、去年櫓を組んだ旧体育委員も手伝いに来ていて、合わせて10人ほどが集まった。  経験者の指揮の元、倉庫からアルミでできた櫓の骨組みを運び出し、二人一組になって、ステージ部分を組立てていく。一片が300cm、床の高さが180㎝の堂々たるステージを組立てた後、ステージの上から2m以上もある櫓部分をみんなで協力しながら組み終えた。  その後は、母親や結衣たち女性の出番だ。ステージの部分を紅白の幕で覆い、櫓の上部に提灯をぶら下げたりして、祭りらしさを演出した。  や~、ご苦労さんとみんなで労りあって、大人には酒、陽翔たちにはジュースが振舞われ、みんな汗をぬぐいながら一口飲んで、旨いと笑顔をこぼす。  中井さんも、すっかり町内の人たちの中に溶け込んでいて、傍で見守る結衣の誇らしそうな顔が愛らしかった。  俺の横でジュースを飲んでいた母が、目を細めて中井親子を見つめ、結衣ちゃんはかわいい子だねと呟く。  いつもなら、そうか? と答えるところを、陽翔は素直にうんと頷いていた。  一旦はお開きになり、俺と結衣も夕刻から始る祭りに備える。朝は手伝うためにTシャツとジーンズだった結衣が、夕刻に俺の家のインターフォンを押した時には、長い髪をアップにし、白地に薄いピンクや青の朝顔が描かれた浴衣を着ていて、俺は文字通り言葉を失った。  薄く化粧をしているのだろうか、薄いピンクに色づいた唇や頬が、結衣を大人びて見せている。 「どう? 似合う?」  結衣がはにかんだように尋ねた瞬間、俺はまじまじと結衣の顔を見ていたことに気が付き、慌てて目を逸らしながら、あ、うんと答える。横に並んで歩き出すも、今度はほっそりした首に落ちるほつれ毛に目を奪われてしまい、昼間よりも気温が上昇したんじゃないかと思えて、持っていた団扇で扇いだ。  いつもは、きゃいきゃい煩いくらいに喋る結衣が、浴衣の裾さばきに気を取られているせいか、小股で大人しくついてくる。何だか唐突に、守ってやりたい気持ちにかられた。  広場に近づくにつれ、盆踊りの曲に合わせた祭り太鼓がはっきりと聞こえてくる。浴衣を着た子供たちを連れた家族や、学生たちが会場に向かう列に混じって歩き、広場へと入る。祭りは大賑わいだった。  焼きそばや、たこ焼き、風船釣りなどの屋台も並び、結衣と一緒に食べ物を分け合ったり、輪投げを競いあったりするのが楽しくて、時間はあっという間に過ぎていく。アクシデントも無く祭りが進むのは、手伝った俺としては嬉しい限りだが、終わってしまうと思うと妙に寂しく感じられた。 「陽翔、喉が渇いちゃった。かき氷でも食べない?」 「いいよ。俺は抹茶の練乳がけだな」 「そんなのあったっけ? 私は苺にする。ほら、あっちだよ」  何曲か盆踊りも踊って満足した俺たちは、踊りの輪を抜けてかき氷の店に向かった。災難が待ち受けているとも知らずに……  途中、ばったりと出くわしたのは、結衣にとって天敵の人物横山夫人とお仲間だった。
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