夏祭り

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 表情を硬くした結衣を見て、横山たちがいつもの噂話しを始めるのを、周囲にいた大人たちが眉をひそめて聞いている。ひそひそ声ながら意地の悪い内容は俺の耳にも届いた。 「ほら、あの子が、戸川さん、じゃなくて中井さんところの娘さんよ」 「あら、実のお父さんの戸川さんにそっくりなお嬢さんね」 「中川さんも、よく前の旦那さんにそっくりなお嬢さんと一緒に、戸川さんたちが住んでいた家に住むことを決心したわね」 「なんでも、お金がなくてあの家に転がり込んだって話だけれど、戸川さんだけ追い出された形になって、同情するわ」  何言ってるんだこいつ? ムカつくばばあだ。  仲間うちでは、底意地の悪さが一番顔に出ている中年女を睨みたくなるのを堪え、俺は両手を身体の前で組み、呆れたように空を仰いで言った。 「ほんと、大人を教育し直す学校を、誰か作ってくれないかなぁ~」  俺の大きな声のぼやきに反応して、横山達がギョッとする。周囲がざわめく中で、結衣が慌てて俺に声をかけた。 「は、陽翔。よしなよ。あとで何言われるか分かったもんじゃないわよ」 「お前、何で文句言ってやらないの?」 「だって、私が言い返したら、中井のお義父さんの教育が悪いからって言われそうだもん。結局、子供が何を言ったって、通じないわ。大人は大人同士の付き合いを優先するから、私たちの言葉なんて都合よく転換されちゃう。陽翔も相手にしない方がいいわ。行きましょ」 「俺なら、何言われても構わないよ。だってさ、お祭りの時ぐらい、気持ちよく過ごしたじゃん。なのに四年前の結衣の誕生日に、ゴルフの送迎を断られたからって、結衣の家族の悪口を言い続けるなんておかしいよ」  横山の仲間は、周りの冷たい視線にオロオロし始め、その場を去りたそうだ。横山は目を吊り上げて、言いがかりよと怒鳴った。  以前の俺なら怒り任せに、怒鳴り返していただろう。でも、いくら正しいことだって、怒りが先に立ってしまったら、相手に分からせるどころか攻撃になってしまうことを、俺は親父の件で知ったんだ。  いや、実際攻撃的になっていたけどさ、理由を知らない周囲から見たら、俺だけが感情的で未熟に見えるってわけだ。なら、違うやり方を試せばいい。 「違うんですか? 俺はまだ子供なもので、前の旦那がいた家に転がり込むという表現が理解できないんです」  さも、難しそうに首をひねる俺を見て、周囲の大人がクスッと笑う。横山が口を開いたが、言い訳をするのを許さず、俺はたたみかけた。
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