夏祭り

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 祭りはもう終盤を迎え、最後まで楽しもうとする人の群れが右往左往していた。  店の列に並ぼうとする人たちをかわしながら歩くのも結構大変で、浴衣を着た結衣は尚のこと、歩幅が制限されるために人ごみに紛れてしまいそうだ。結衣を心配しながらついてきてくれる中井に、俺と親父は自分たちで行くことを告げ、礼を言って別れた。 「陽翔、中井さんのおかげで、太鼓が叩けるようになって良かったな。この辺の人たちはみんな人情があると思わないか? そりゃあ、横山さんみたいな人もいるけれど、ああいう人は本気で相手にしなければいい。陽翔みたいに真っ向から行くと、余計に毛を逆立てて、煩くなるから」 「親父が俺と横山さんの会話をどこから聞いていたか知らないけれど、俺だって、無邪気な子供の振りして、チクリとやってやったさ。親父が来なくたって、上手くやれたんだからな」  俺の拳に怯んだ横山の顔を思い出し、語尾が尻すぼみになったけれど、親父は笑っただけで否定しなかった。 「そうか、それは邪魔したな。お前と結衣ちゃんの怒りの声は、少し離れたところからも聞こえたぞ。野次馬が多くてなかなか近づけなかったけれどな。まぁ、今度はきっと一人で上手く対応できるさ」 「親父はのほほんとしているから、相手も毒気を抜かれて敵意を無くすんだよ。俺が同じやり方をしようとしても、上手くいかないと思う」 「俺の若いころは、もっと血気盛んで喧嘩早かった。失敗して、相手も自分も嫌な思いして、だんだん攻めどころや守りどころのバランスを学んでいくんだ。痛い思いをしたら、二度と同じ過ちをしなきゃいい。先祖から続いてこの田舎にいる連中は、良いも悪いも、ゆったり構えて見守ってくれるさ。ただ、まぁ、お前が横山さんを怖がらせたことは、語り草になるだろうがな」
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