本物の家族

1/3
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

本物の家族

 夏祭りの終わりを告げる放送が流れた。  去って行く人々の群れの中、風船釣りをもう一回やりたかったと父親にごねる子供が、目の前を通る。  暴れる子供を避けるようにして、中井と結衣がやってきて、俺たちに労いの言葉をかけてくれた。 「ありがとうございます。中井さんが提案してくださったおかげで、親父と一緒に演奏ができました」  横で親父が頭を下げると、中井が恐縮したように手を振る。大人が交互に繰り返す「いえいえ、こちらこそ」のやりとりを、ワイパーのように左右に目を動かして見ていた結衣が、会話が落ち着いたところを見計らって口を開いた。 「陽翔とお父さんの和太鼓コラボ最高だった。はい。たこ焼きをどうぞ。これ買うのに沢山の人が並んでて、私でちょうど売り切れになったの。ラッキーだったわ。お義父さんのはこっち。一緒に食べようね」  くすぐったそうにありがとうと答える中井に、結衣が笑顔で返す。二人の間には、他人の俺でも感じることができる信頼という絆が築かれていて、さっき通った家族とは、あまりにも対照的に映った。 —— 親なら自分のいうことを聞いてくれて当たり前と信じて疑わず、権利を主張する子供と適当にあしらう親、血のつながりはないけれど、お互いに相手のことを思いやり、親子になろうと努力する結衣たち家族 ——  恥ずかしいけれど、俺は前者だと思う。父親を責めるだけで、相手の言葉も聞かず、自分から良い家族を築き直そうともしなかった。図体がでかいだけで、聞き分けの無いガキそのものだ。  この祭りが終わったら、自分からも積極的に家族に関わらなければと思う。   親父は浮気はしないなんて言ったけれど、それはどうだか。なぜなら、中井がスマホで写した写真を自分のスマホに転送してもらった親父が、ニヤニヤしながら「後で遥香ちゃんに送ってやろう」なんて言うからだ。 やに下がった親父の顔を見ていたら、浮気はしないなんて言葉を素直に信じるわけにはいかなくなった。  帰れる場所が無いと思わせたら、寂しがり屋の親父はどこかに憩いを見つてしまわないかと心配になる。  家族だから、一緒にいて当たり前、親なら親の役割をこなし、子なら子らしくなんて家族像は、理想上にあるだけで、クラックが入れば一発でバラバラになる脆い象なんじゃないのだろうかのか。  壊れてしまった家族を経験している結衣たちは、その脆さを知っているから、親として子として新しい家族を築こうと努力する。  家族ごっこ。そんな言葉が頭に浮かんだが、俺たちこそが、結衣たち家族を見習って、本物になるべきだと思った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!