代償

3/3
前へ
/32ページ
次へ
 ルガートの声よりも先に、有凛がヴェルアスの口元を抱きしめていた。 「……う」  二人を取り囲んだうちの一頭の鋭い牙が、ヴェルアスをかばった有凛の肩に食い込んだ。食い込むと同時に溢れ出した血が、数メートル下の地面へぼたぼたと重い音を立てた。  その隙に、褐色の龍数匹が、有凛を狙ったグループを薙ぎ倒し確保した。 「有凛!」  嫌な音がして、体に刺さった異物が離れると、表情を無くし、青ざめたヴェルアスの顔が見えた。  肩が、熱い。  腕が、濡れて…、冷たい。 「…大丈夫…だって。俺、丈夫…」  有凛の目の前が、あっという間にぐにゃりと歪んだ。 「……れ」  丈夫…でもなかったかな。  …もう、終わりか?  まあ、…いいや。  帰れそうに無いし、  好きに、なりそうで、…悔しいし。  使い捨てなんて耐えられるわけ、ねーし。  これで、いいことにしよう。  うん。 「…痛ってー……」  ずる。  有凛の身体から、力が抜けた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

912人が本棚に入れています
本棚に追加