夢も、うつつも

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夢も、うつつも

 王宮の中は、慌ただしかった。  勤務を終え、一度帰宅した医師たちが一様に城へ呼び戻され、また、州内全域の医師全てに待機命令が発令されていた。一体何があったのかと呟かれるなか、意識のない血塗れの有凛がヴェルアスによって運び込まれ、城内が騒然となったのは言うまでもない。 「…絶対に、死なせるな」  有凛を寝台に下ろし、鋭い視線を医師団に投げたヴェルアスが低く命じれば、全員が例外なく竦み上がった。  そして、集められた精鋭たちの眼が一斉に有凛に注がれた瞬間、その場の緊張は否が応でも高まった。  血に染まった身体。  出血が多い。  しかし。  医師団の背中に、冷たいものが走ったのは言うまでもない。 「王」  医師団の最年長であり、ヴェルアスの主治医でもあるカヴァスがそっとヴェルアスに近づいた。 「何だ」 「有凛様は王のお手つきでいらっしゃいますか」 「ない」 「……失礼を」  削れば万能薬になりえる鱗は、人間にとっては諸刃の剣だ。既に身体の関係があって有凛の体の内部がある程度の時間ヴェルアスの体液に触れていれば問題はなかっただろうが、そうでないと言うのならば、人間には適合しない可能性があるので、危険が大きく使えない。  そもそも自分達の人間の体に関する知識は皆無に等しい。  ヴェルアスが有凛を傍に置くようになってから、カヴァスはそれなりに情報収集を重ねてきたが、まさかこんなことで役に立つとは思ってもみなかった。  カヴァスは医師団に向き直る。 「止血方法は我々と同じで問題ない!国内に、人間がいないか調べろ」  カヴァスの声とともに、慌ただしく室内が動き出した。 「居ません‼︎」 「王の鱗は」 「人間には使えない。国内に人間がいないか、念の為にもう一度徹底的に調べろ!保管する輸血用の血液!一部でも型が一致するものがあれば使えるように精製しろ!」 「すぐに‼︎国民へも献血要請をします!」  国王が、あんなに感情的になったのは初めてだ。  何が何でも、彼を助けねば。 「脈が弱いが、…何が何でも引き戻そう」  一人が誰にともなく言うと、医師団は、一斉に頷いた。
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