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有凛が、目を覚ました。
日当たりの良い、誰も居ない部屋、
ちょうど朝焼けが落ち着いた、早朝だった。
「……」
目の前がぼんやりしてる。
いつもの、天井……?
肩が、馬鹿みたいに痛い。
「…嘘っそだろ、勘弁しろよ…って!」
寝返りすら打てそうにない。
「…痛すぎて、死ぬ…痛み止めとか、ないの?」
くそ。
助かっちゃったのか。
なんとも言えない感情が、体を覆い尽くした。
肩は当然痛いが、胸まで痛い。
どいつもこいつも、勝手なことしやがって。
ここで、飼い殺しにされるのなんて、ごめんだっつーの。
いずれ、遠くない先に捨てられるのなんて、まっぴらだから。
ただ、人並みな人生を望むのは
贅沢なことか?
「…くっそ。…絶対、帰るからな…」
無理やりに起きあがろうとして、肩の痛みで泣きかけた。
「ぐ」
結局そのまま寝台に沈み込んだ。貧血も手伝い、酷いめまいとともに有凛の意識は再度体から離れることになった。
その直後、静かにドアが開き、ヴェルアスが姿を見せた。
有凛の隣に立ち、寝顔を見下ろしてゆっくりと目を細める。
「…夢でも見ているのか」
目尻の、僅かな涙をそっと指で拭う。
まだ青白いものの、僅かに顔色が良くなったことを確認し、艶やかな髪を優しく撫でた。
何度も滑らかな髪をすき、ヴェルアスは有凛の頬に触れた。
滑らかな白い肌。そっと唇を指でなぞれば、有凛が僅かに頬をすり寄せる。
同時に、ふわり、と甘い香りがヴェルアスの鼻腔に届く。
ヴェルアスはそっと有凛の枕元にかけると、有凛が僅かに身動いだために目尻から細く頬へ伝った涙を、指先で拭ってやった。
「泣くな」
低く呟き、頬にそっと口付けを落とせば、甘い香りが強くなり、ヴェルアスが有凛の頸を指でなぞった。
「私は、それほど気は長くない」
当然、有凛からの返事はない。
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