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1週間ほどして、完治はしていないものの、有凛は何とか通常の生活に戻ることができた。
「…アホか、お前は!」
見舞いに来たはずのルーセルの怒号が響き渡った。
「ごめんなさーいっ!痛ってっ!」
有凛が肩を竦めた。
「大体な、人間界だの天界だの、無条件にホイホイ行けると思ってんのかお前は⁉︎世の中にはな、秩序ってもんがあんだよ!おまけに、お前みたいに見てくれも実際もひ弱な奴が、一人で逃げ切れるか、アホ!いいか、お前は、見た目が龍族好みなんだよ。細くて、綺麗で、おまけに都合よく弱い。国王の手つきにもなってねーんなら、ヤられまくって、喰われんのが落ちだ、甘くねぇんだよ、この馬鹿‼︎」
青筋を立てかねない勢いで、ルーセルが怒鳴っている。
「ヴェルにも散々言われた…」
「そんなことする前に、とっとと俺かヒュアんとこへ駆け込んでこい‼︎」
「そうなんだけど。ちょっとルー、ここ、王宮…」
「あ?だから何だ。たまたま助かったからいいようなもんで、こんな結果にしたのはどこのどいつだ?ったく、子どもの世話もできねーのか、ここは‼︎」
「…子どもって。ね、落ち着きなってばー」
ヒュアロスが苦笑してルーセルをなだめ、座らせた。
「ごめんねー、有凛。ルーは、有凛が可愛くて仕方がないから、心配で心配で。家でも、ずっとこれだったんだよ。何せ、口が悪いからこんなだけど」
「るせーよ‼︎」
笑っているはずの有凛の瞳から、ぼろ、と涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう、ルーセルも、ヒュアもさ」
ほば、泣き笑いだ。
「ありがとうじゃねぇ!」
「だから、ルー?鱗出てるでしょ、有凛がびっくりしてるでしょ!落ち着きなってば‼︎」
ルーセルは天井を見上げ、深呼吸をした。
「…あー…、悪かったな。どうも、お前は不安定でいけねぇ…。昔のヒュア見てるようで、怖いんだよ」
頼るところも、頼れる者もなく、ただ自分で自分を追い詰める。ヒュアロスは、ルーセルが運命の相手であったために救われたが、有凛は果たしてどうなのか。
「だいたい、大丈夫だって言う子は、大丈夫じゃないからさ」
ヒュアロスが苦笑した。
「僕らで力になれるなら、いくらでも手伝うから?」
ぼろぼろと有凛の瞳から涙が落ち続け、
「…連れて帰るか」
ルーセルは眼を細めて有凛を見つめた。
「あのね、有凛は一般の国民じゃないから。王宮預かりの、国賓レベルのお客さん。本当なら、僕らが…それこそほいほい会える人じゃないんだよ、ルー?」
「知るか。見ろ、有凛。あれのどこが大丈夫なんだよ」
「まあ、…そうだけど…」
声もなく、笑ったまま二人を見つめ、ぼろぼろと涙を零し続ける有凛の様子は、異様以外の何ものでもない。
「お前は?本人はどうなんだ」
やや口調を和らげてルーセルが問えば、ようやくひっく、としゃくり上げた有凛が小さく口を開いた。
「…ここにはいたくない」
ほらな、とルーセルは、遠慮なくルガートを呼びつけた。
「聞いてたんだろ。放っておいたら飛び降りるか首吊るか」
「ちょっと、ルー」
「黙ってろ!いいか、こいつを死なせたくなきゃ、本人が納得するまでうちへ預けとけ。ここよりなんぼか面倒見てやるよ」
ルガートが有凛を見ると、既に泣き笑いはしていないが、心ここにあらずの表情だ。
有能な側近は、すぐに首を縦に振った。
「お願いいたします」
「見送りも結構、俺たちが連れて帰る」
「わかりました」
ヒュアロスがにっこりと笑い、ぽん、と有凛の頭を撫でた。
「よし、決まりだ。一緒に帰ろう!」
「…ん。ありがと」
有凛は、抜け殻のように口元だけで笑った。
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