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「いい眼してるねえ。全部、いい石だよ」
店の主人らしき男性が近づいてきた。
「あ、ヒュアロスだったか。美人連れてるなあ。ルーセルは?」
「ここにいる。それ以上、ヒュアに近づくな、アホ店主」
「相変わらず容赦ないな、お前は!」
「ったりまえだ。何かと手癖が悪いんだよ、てめーは」
「あのなあ。ヒトの番に手出したりしないって」
ルーセルは、苦笑する店主の傍からヒュアロスの腕を掴んで引き戻し、腰を引き寄せた。
「君は、一人?」
ぐい、と先ほどとは反対の手で、ルーセルが今度は有凛を引き戻す。
「真面目に、だ。真面目に死にたくなければ、ヒュア以上に、こいつには触るな」
「へーへー。…30分後にまでには仕上げとくよ」
果たして、きっかり三十分で、5枚の美しい皿が仕上がり、3人はそれを受け取ると、帰途に着いた。
「幼なじみ?」
「そう。幼なじみで、喧嘩友だちなんだって」
「男でも女でも、見境がねぇ奴なんだよ。触ったら孕むから、絶対に触んなよ」
「何それ…」
ふと、有凛の視線が向こうへ動いた。
すらりと背の高い、銀髪を頭頂に結い上げた人型の龍が、美しい女性を伴って歩いている。
無意識にそれを追う有凛の視線に、ルーセルとヒュアロスは顔を見合わせた。
暫く、そのまま待ってみたが、有凛に動く様子がない。
ふら、とヒュアロスの足元が揺らぎ、ルーセルが抱きとめた。
「…あれ、…立てな…」
「ヒュア⁉︎」
ずるりと崩れた体をルーセルがひょいと抱き上げる。道を逸れ、人通りの少ない路肩に座ると、
「ここんとこ、調子が良かったのにな。お前が来て随分持ち直してたし、俺も助かってたんだ。…ヒュア?分かるか?」
「…ん…分かる…」
「薬、どこだ」
「ポケット」
有凛が薬を探し出すと、ルーセルは持っていたボトルの水を口に含み、
「ヒュア?」
薬ごとヒュアロの口に流し込んだ。
「…っ」
「飲め」
「…ん…」
顔を顰めたものの、ごく、とヒュアロスの喉が動くと、ルーセルがほ、と肩を落とした。
「…よし、んじゃ、そろそろ帰るか」
「荷物、どうする?」
「後で俺が取りににくるから、ほっとけ」
ほっそりとしたヒュアロスを抱え、あっさりと言うと、ルーセルは歩き始めた。
腕の中のヒュアロスを見るルーセルの視線は柔らかい。微笑しながら、小声で何かを話しつつ歩く様子は、いかにも恋人同士や番のそれだ。
何となく心がふんわりとした後に、胸が痛んだ。
そして、考えるのは。
結局、なんだかんだ言って、いっつもヴェルのことを考えてるんだよ、俺は。
「もー、最悪」
マジで。術中にハマってるというか。
あいつらの思うツボまっしぐらというか。
「あー……」
自分も目眩がしそうだった。
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