気分転換

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「…ったく、お前は‼︎」 「ごめんなさい‼︎」  ルーセルに叱られるヒュアロスも珍しい。 「薬飲み忘れただけ、って何だよ、アホか!」 「最近、調子良かったからさ、つい…」 「アホ‼︎有凛に謝っとけ!」 「有凛、ごめんなさい‼︎」 「いや、あの…」  珍しく小さくなるヒュアロスがおかしく、有凛は笑ってしまった。 「大丈夫。楽しかったし、荷物はルーセルが持ってきてくれたし」  こと、とヒュアロスが有凛の前に、今日できたばかりのデザート皿を置いた。 「持って帰るといい」 「え?」  黒と、シルバーと、淡い青の透き通った皿は、光を受けて綺麗に輝いている。 「あいつ、腕は一級なんだけどな」  ルーセルがヒュアロスの隣で皿をとりあげた。 「皆の髪色と、国王の髪と、瞳の色」  ヒュアロスは一つずつ丁寧にそれらを布に包むと、有凛に手渡した。 「はい。そろそろ、気持ちの整理もついただろう?国王も、有凛の帰りを待ってると思うよ」 「…飼い殺しなんて、嫌だし」 「飼い殺し?」  目の前の番二人が顔を見合わせた。 「…どーだかな。帰って話をしてから判断しろ」 「僕もそう思うなあ…。大事にされてると思うよ?」  まあ、有凛がΩだから慎重になってるんだとしたら、  間違いなく国王は。  インターホンが鳴り、ヒュアロスが駆け出していく。 「国王とはもう少しよく話せ。いいたい放題が許されんのは、お前の特権だろ」  ルーセルがため息混じりに呟いた。 「確かに、そうだけど」 「それでもダメなら、いつでもここへ帰ってこい。お前の実家だとでも思ってろ」 「ルーセル…?」  有凛が大きな瞳でルーセルを見つめると、 「有凛ー、お迎え!」 「え…?」  銀髪の、見慣れた国王が姿を見せた。 「ヴェル‼︎」  付き人は見当たらない。 「おいおいおい、護衛は?ルガートは?まさかとは思うけど」  ヴェルアスはうんざり、という表情でこちらを見た。 「あいつに言うと煩いし大事になるから、一人で出てきた。見つかっても厄介だ。さっさと帰るぞ」 「何勝手に」 「これを」  ヒュアロスが、皿の包みをヴェルアスに差し出した。いつのまにか、高級な紙で包装までしてある。 「有凛が、数日間ここで仕事をして、その報酬で作ったものですよ。お使いになってはいかがですか」  有凛の眼が丸くなった    何だよ、そう言うことなの?? 「そう言うことなら、受け取ろう」  包みを受け取ると、ヴェルアスは片手で有凛の腰を引き寄せた。 「庭を借りるぞ」 「国王」  ヴェルアスがルーセルに視線をやった。 「有凛には、いつでも帰ってこいと言ってあるからな」  ヴェルアスは口角を上げた。 「実家ができたのは大いに結構。これで、堂々と喧嘩もできるわけだな。これからもよろしく頼む」  ぐい、とヴェルアスに背を押されて庭に出され、あっという間に龍本体に戻ったヴェルアスの手に大切そうに囲われた有凛は、あっという間に飛び立った国王とともに、すぐに見えなくなった。  ヒュアロスが寂しそうにため息をつく。 「国王、本気じゃん…。あの方が単独行動なんて、ありえないよ??有凛ってば、何を心配してんだかね。あーあ、楽しかったのになあ…」  ぐい、とルーセルがヒュアロスを引き寄せ、膝に座らせた。細い顎を掬い上げ、唇に口付ける。 「俺で、物足りないって訳じゃないだろ?」  頸に唇を這わせながら耳元でルーセルが囁けば、びくりとヒュアロスが身体を震わせた。 「ちょ…っ、も、…」  否やは無い。 「…そんなわけ、ないでしょ」  僅かに目元を染め、ヒュアロスがルーセルの首に腕を回せば、あっさりとその身体は浮き上がって寝室に運ばれた。 「やば、抱き殺しそう…」  不気味な台詞を吐き、唇を舐めたルーセルはヒュアロスをゆっくりと横たえた。
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