ご機嫌取りからの

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ご機嫌取りからの

 城から少し外れた庭の隅に静かに着地をすると、ヴェルアスは手から有凛を下ろし、人型をとった。淡い青の瞳に、銀の長い髪。いつ見ても呆れるほどに整っている。ヴェルアスはそのまま有凛の腰に腕をまわし、ぐい、と引き寄せた。長い指で有凛の顎を引き上げ、覗き込んだ。 「今まで通りお前を縛る気はないが、人間界へは帰せない。…ただ」 「なんだよ」  初めて、何か条件が付けられるのか。  有凛の視線がそれた。 「お前の部屋は空けさせて、私の居室に荷物は移した」 「は?」  ヴェルアスは真顔だ。 「何で!勘弁しろよ!」  有凛が悲鳴のように言えば、ヴェルアスは苦笑してその額に口付けた。 「ただ、近くにいろと言っているだけだ」 「何でだよ」  ふ、とヴェルアスは目を細めた。 「それを、私自身が確かめたい」 「は?勝手なことしてんなよ!?」  いずれにせよ。  当然、反論の余地はなかった。  ヴェルアスの居住スペースは、有凛が考える普通の広さでは無かった。 「私の部屋、ってさ…」  目の前の部屋を前にして、有凛は呟いた。 「…そりゃ、俺一人増えたって、なんてことなさそーだな…」  リビング?に、書斎?はっきり言って、家だ。城の中に、マンションの一室。いや、そもそも城がわかってないし。何、この数えきれないほどの部屋は??  その中でも日当たりが良く窓の大きな上階に有凛は部屋をあてがわれた。  専用のクローゼットにはビッシリと着衣が揃っている。専用の広いバスルームもあり、まるでリゾートにでも来たようだ。  だが、寝室だけがない。 「お休みになる時は、こちらです」  と、隣の重厚な扉を指差され、 「ヴェルアス様の主寝室です。こちらでお休みになるようにと仰せです」 「は?」  有凛はあからさまに顔を顰めた。 「…話が違うだろ。絶対に拒否!」 「いいえ。違いません」  ルガートは涼しい顔で、いつものように全く取り合う気はなさそうだ。 「他の寝室は全て鍵がかかっているのでお入りになれません。有凛様とヴェルアス様以外の者はこちらの主寝室へは入れませんので、中までのご案内はしかねます。いずれにせよ、今夜からはこちらでお休みください」 「だったら、自分の部屋の床かソファで寝る!」  ルガートの目が一瞬細くなった。 「…それをお聞きになったヴェルアス様がどうなさるかは、私には判断しかねます」  聴き慣れた足音に有凛が振り返ると、 「そんなに警戒するな。お前のプライドは尊重すると言ったろう。ルガート、案内は済んだか」 「はい」  ヴェルアスは珍しく僅かに笑んだ。 「下がっていい」 「失礼いたします」  ルガートはいつものように、綺麗に一礼をすると、静かに姿を消した。
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