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おばさんと目が合う。
固まる俺とは対照的に、おばさんはどんどんおれに向かってくる。
おれを、まっすぐ見つめながら。
「……だっ、誰ですか……?」
勇気をふりしぼって言う。
でも答えない。そのうちおばさんはにたりと笑った。そして。
「海王小学校六年、深町颯くん、だよね」
全身から、ヘンな汗がふきだした。
「……あなたは……、誰ですか……?」
なんとか声をふりしぼる。
おばさんはとうとうおれの目の前まで近寄り、またも、にたりと笑った。
「おばさん、颯くんを守りたいだけなの。颯くんが、だぁい好きだから」
このおばさんは一体なにを言ってるんだろう。
とうとうおれは、言葉が出なくなった。体がふるえだす。
このひと、やばいひとだ。
そう思った瞬間、俺はおばさんから少しでも離れるためかけ出そうとした。
けれど、いとも簡単にパーカーのフードをつかまれ止められる。
「はなせっ……!」
「颯くん、なんで逃げるの? おばさんといっしょに遊びましょ? お菓子もゲームも、好きなもの、なんでも買ってあげる」
おばさんの顔は見えない。
見えないぶん、その言葉が余計に怖く感じる。
怖い。誰か。誰か。誰か!
「助けてっ……誰かっ……」
サッカーでなら、校庭の端から端まで声が出るのに。
こんなときに限って蚊のなくような声しか出せない。
「そんなに怖がられると、おばさん悲しくなっちゃうなぁ」
その声は、ゆったりと俺の耳をすり抜けていく。
もはやもがくことしかできないおれに対し、おばさんはなおも信じられないほど強い力で俺のパーカーを引っ張りあげる。
苦しい。俺、殺される。
そう思った、その時だった。
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