Ⅰ 颯(小学6年生)

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おばさんと目が合う。 固まる俺とは対照的に、おばさんはどんどんおれに向かってくる。 おれを、まっすぐ見つめながら。 「……だっ、誰ですか……?」 勇気をふりしぼって言う。 でも答えない。そのうちおばさんはにたりと笑った。そして。 「海王小学校六年、深町颯くん、だよね」 全身から、ヘンな汗がふきだした。 「……あなたは……、誰ですか……?」 なんとか声をふりしぼる。 おばさんはとうとうおれの目の前まで近寄り、またも、にたりと笑った。 「おばさん、颯くんを守りたいだけなの。颯くんが、だぁい好きだから」 このおばさんは一体なにを言ってるんだろう。 とうとうおれは、言葉が出なくなった。体がふるえだす。 このひと、やばいひとだ。 そう思った瞬間、俺はおばさんから少しでも離れるためかけ出そうとした。 けれど、いとも簡単にパーカーのフードをつかまれ止められる。 「はなせっ……!」 「颯くん、なんで逃げるの? おばさんといっしょに遊びましょ? お菓子もゲームも、好きなもの、なんでも買ってあげる」 おばさんの顔は見えない。 見えないぶん、その言葉が余計に怖く感じる。 怖い。誰か。誰か。誰か! 「助けてっ……誰かっ……」 サッカーでなら、校庭の端から端まで声が出るのに。 こんなときに限って蚊のなくような声しか出せない。 「そんなに怖がられると、おばさん悲しくなっちゃうなぁ」 その声は、ゆったりと俺の耳をすり抜けていく。 もはやもがくことしかできないおれに対し、おばさんはなおも信じられないほど強い力で俺のパーカーを引っ張りあげる。 苦しい。俺、殺される。 そう思った、その時だった。
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