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「わたしの颯くんになにしてんのよーっ!!」
ぼすっ。
女の子が叫ぶ声と、対照的な鈍い音。
よろけたおばさんは、おれのパーカーをつかむ手をゆるめた。
「なっ、だれっ……」
「その手を離しなさぁい!!」
ぼごっ。
やっとふりむくことができるようになったおれは、目の前の光景を見ておののく。
例の女子高生・岬さんが、おばさんの顔面に、砲丸投げの要領でカバンをクリーンヒットさせているまさにその瞬間だった。
おばさんは思わず体勢をくずして倒れこむ。
その光景のおぞましさに、ただただボーゼンとしていた俺は、急に手首をつかまれて我に帰った。
「颯くん行くよ! 走れる?」
急に女子高生に聞かれてとまどう。
「えっ、あ、うん……?」
「あーもう、じれったい!」
その言葉を言い終わるよりも早く、俺の体はひょいと宙に浮かんでいた。
女子高生にいとも簡単に持ち上げられていたのだった。
「み、岬さんっ!?」
「ちゃんとつかまってて!」そう言うと彼女は走り出す。「誰かぁぁぁぁ!! おまわりさん、助けてぇぇぇぇ!!」
彼女の肩越しに見たおばさんはまだ立ち上がれないでいたけど、その言葉を聞いて、明らかに動揺が見えた。
そんなおばさんもみるみる離れていく。
小学生男児をお姫様抱っこしながら、とてつもない早さで雑木林をかけ抜けていく女子高生。
……なんだこれ。
彼女に抱きかかえられながら、おれはだんだんとなぜか冷静になってきていた。
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