Ⅰ 颯(小学6年生)

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颯くんになにしてんのよーっ!!」 ぼすっ。 女の子が叫ぶ声と、対照的な鈍い音。 よろけたおばさんは、おれのパーカーをつかむ手をゆるめた。 「なっ、だれっ……」 「その手を離しなさぁい!!」 ぼごっ。 やっとふりむくことができるようになったおれは、目の前の光景を見ておののく。 例の女子高生・岬さんが、おばさんの顔面に、砲丸投げの要領でカバンをクリーンヒットさせているまさにその瞬間だった。 おばさんは思わず体勢をくずして倒れこむ。 その光景のおぞましさに、ただただボーゼンとしていた俺は、急に手首をつかまれて我に帰った。 「颯くん行くよ! 走れる?」 急に女子高生に聞かれてとまどう。 「えっ、あ、うん……?」 「あーもう、じれったい!」 その言葉を言い終わるよりも早く、俺の体はひょいと宙に浮かんでいた。 女子高生にいとも簡単に持ち上げられていたのだった。 「み、岬さんっ!?」 「ちゃんとつかまってて!」そう言うと彼女は走り出す。「誰かぁぁぁぁ!! おまわりさん、助けてぇぇぇぇ!!」 彼女の肩越しに見たおばさんはまだ立ち上がれないでいたけど、その言葉を聞いて、明らかに動揺が見えた。 そんなおばさんもみるみる離れていく。 小学生男児をお姫様抱っこしながら、とてつもない早さで雑木林をかけ抜けていく女子高生。 ……なんだこれ。 彼女に抱きかかえられながら、おれはだんだんとなぜか冷静になってきていた。
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