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「あ、あの、岬さん。おれ、もう立てるから、えっと、大丈夫です」
やんわりと、岬さんに伝えてみる。
岬さんははっとして、俺の腰にあてがえた右手だけ高めにあげる。
「あっ、そっかそっか。ごめん、はい!」
そして俺は無事に、やっと地面に足をつけることができた。
「それにしても、本当に、颯くんになんにもなくてよかったぁ……」
彼女はくしゃっとした笑顔で俺を見上げる。
その顔は本当に、心から俺の無事を喜んでくれている顔で。
女の上目づかいはやばいってなんかで見たけど、それはこのことかな……、なんて思ってしまった自分が恥ずかしくて、彼女から目線をそらした。
つい、どうでもいいことを言いはなってしまう。
「岬さんも立てる? 服、汚れるよ」
岬さんから目をそらしたまま、彼女に手を差し伸べた。
……少したっても、岬さんからの反応がない。
あれ? と思って、思わず彼女のほうをチラ見する。
すると彼女は、手を口でおさえながら、顔を真っ赤にしていた。
「……えっ、なんで!?」
俺が思わずそうもらすと、岬さんははっと我にかえる。
「あっ、ごめん!颯くんがわたしのことなんて心配してくれて、てっ、手をさしのべてくれてっ、うれしくて……」
そう言いながら、涙目の彼女は、行き場のなかったおれの手をとった。
「ありがとう。すっごくうれしい」
つながれた右手が妙に熱くて、おれは思わずまた彼女から目をそらした。
「そんなことより早く立って! あいつがまた追いかけてくるかもだよ!」
おれはそんなことしか言えなくて。まあ実際そうなんだけど。
立ち上がってもなお手をはなさない彼女に少し困りながら、おれたち……と、通報してくれたお兄さんは、その場で警察の到着を待っていた。
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