Ⅰ 颯(小学6年生)

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「あ、あの、岬さん。おれ、もう立てるから、えっと、大丈夫です」 やんわりと、岬さんに伝えてみる。 岬さんははっとして、俺の腰にあてがえた右手だけ高めにあげる。 「あっ、そっかそっか。ごめん、はい!」 そして俺は無事に、やっと地面に足をつけることができた。 「それにしても、本当に、颯くんになんにもなくてよかったぁ……」 彼女はくしゃっとした笑顔で俺を見上げる。 その顔は本当に、心から俺の無事を喜んでくれている顔で。 女の上目づかいはやばいってなんかで見たけど、それはこのことかな……、なんて思ってしまった自分が恥ずかしくて、彼女から目線をそらした。 つい、どうでもいいことを言いはなってしまう。 「岬さんも立てる? 服、汚れるよ」 岬さんから目をそらしたまま、彼女に手を差し伸べた。 ……少したっても、岬さんからの反応がない。 あれ? と思って、思わず彼女のほうをチラ見する。 すると彼女は、手を口でおさえながら、顔を真っ赤にしていた。 「……えっ、なんで!?」 俺が思わずそうもらすと、岬さんははっと我にかえる。 「あっ、ごめん!颯くんがわたしのことなんて心配してくれて、てっ、手をさしのべてくれてっ、うれしくて……」 そう言いながら、涙目の彼女は、行き場のなかったおれの手をとった。 「ありがとう。すっごくうれしい」 つながれた右手が妙に熱くて、おれは思わずまた彼女から目をそらした。 「そんなことより早く立って! あいつがまた追いかけてくるかもだよ!」 おれはそんなことしか言えなくて。まあ実際そうなんだけど。 立ち上がってもなお手をはなさない彼女に少し困りながら、おれたち……と、通報してくれたお兄さんは、その場で警察の到着を待っていた。
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