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そのお家のドアを、軽くノックしただけでがちゃりと開ける。
「こんにちはー!」
この二年間通い続けているというのに、この深町家は、ドアを開けたとたん優しい空気に包まれることにいつも驚いてしまう。
まぁ、暖房でほかほかしているというのもあるけどね。
わたしの声を聞いて、ぱたぱたと足音がしてから、リビングに通じているドアが勢いよく開いた。
「あら、岬ちゃんいらっしゃーい! 土曜日に珍しいね」
深町家の母、深町亜希子さん。
そのうち、わたしのお義母さんになる人だ。……なーんて。
「お休みなのに遊びに来ちゃってごめんなさい。大丈夫でしたか?」
わたしの言葉に、亜希子さんは、目をぎゅっとつぶって細かく首を振った。
そんな仕草がチャーミングに思えて、思わず頬がゆるむ。
「ぜーんぜん問題ない! パパは朝から釣りだし、息子は起きないし、ちょうど暇してたとこ!」
「颯くん、まだ寝てるんですか」
「部活が休みだからって、何回起こしてもダメ! 困ったもんだわ」
そう言って、亜希子さんは肩をすくめる。
それなら……。
「じゃあわたし、起こしてきてもいいですか!?」
わたしの言葉に、亜希子さんは少しきょとんとして、それから、にやりと笑った。
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