Ⅱ 岬(高校3年生)

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彼はパンにジャムを塗ったあと、不機嫌そうにそれをかじる。 寝癖がぴょんぴょんしていて、とてもかわいい。 けど、それを言ったらますます機嫌を損ねかねないので、わたしは口をつぐんだ。 「岬ちゃんはミルクティーでいいよね?」 亜希子さんが、マグカップを差し出してくる。 ふうわりと立ち上る甘い香りが、わたしの鼻孔をくすぐった。 「あ、ありがとうございます!」 「岬、もうすぐ試験でしょ。こんなとこでアブラ売ってていいわけ?」 うっ……。とげとげした口調で、痛いところを突いてくる。 わたしはミルクティーを一口含んでから、おずおずと答えた。 「ちょ、ちょっと気分転換に、ね~……」 「なに甘いこと言ってんのさ。あと、おれだって忙しいの。岬になんて付き合ってられないの。わかる?」 中学生になって、颯くんはだいぶ生意気を言うようになった。 そこがまたかわいいんだけど、それもまた言うと余計にむっとさせちゃうので、カワイイと呟きかけた口を必死に閉じる。 と。 颯くんの背後から、まるめた新聞が彼の頭めがけて振り下ろされた。 ぱこん! と、小気味のいい音が響く。 「いってぇ!」 「こら颯、なに偉そうに言ってるの! ごめんね岬ちゃん、最近反抗期でねー」 「べっ、別に反抗期じゃないし! そもそもそれを言うなら、思春期男子の寝込みを襲う岬のがたち悪い……」 「あらあら、そんな言葉どこで覚えたのかしらねこの子は。お母さんが何回起こしても起きないから、代わりに起こしに行ってくれただけなのにねー」 「ぐっ……」 そう言ったきり押し黙る颯くん。相変わらずお母さんに敵わないところも愛おしい。 できることなら、こんな時間が、ずっと続けばいいのに。 勉強しなくちゃだとか、大人にならなくちゃだとか、なんにも考えないで。 この幸せな時間が、ずっと、ずっと。
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