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「ま、要は二人とも、勉強しなくちゃいけないってことね。がんばんなさい、学生たち!」
「が、がんばりますっ……!」
「あーあ、大人はいいよなぁ、気楽で」
「あら、あんたが代わりにお母さんのお仕事行ってもいいんだけど」
「え、遠慮しときます……」
そう言って、そそくさと次のレースを始める颯くん。
「まったく」と呟いてから、亜希子さんは、わたしに笑いかけた。
「岬ちゃん。うちの朝ご飯がいい息抜きになるんだったら、いつでも食べに来て。岬ちゃんが来てくれると、娘ができたみたいで嬉しいから!」
そんな亜希子さんの優しい言葉に、つい、目頭が熱くなる。
「……はいっ! お言葉に甘えて、たくさん来ますっ!」
亜希子さんは、ふうわりと笑った。
もはやこれは、わたしの『お義母さん』だと、本人に認めてもらったってことでいいよねっ……!?
そう思って颯くんのほうを見ると、彼の横顔は、眉間にしわを寄せて心底嫌そうな表情をしていたけれど……きっと、恥ずかしがっているんだな。まったくぅ。
「お昼も食べていけばいいのに」という亜希子さんの申し出を丁重に断って、家へと急ぐ。
お父さん、もう、なんか先に食べたかな。
我が家には、母親がいない。お父さんとわたしの二人だけ。
わたしが不自由しないように、がんばって働いて、なんとか学費を貯めてくれているお父さん。
もちろん滑り止めも受けるけど、我が家の家計のことも考えると、どうしても公立の短大に受かりたい。
残り、一週間。頑張んなくちゃ、わたし。
そう思って、わたしは、力強く自転車のペダルを踏み込んだ。
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