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午後受けた最後の対策授業は、正直、頭に入ってこなかった。
そのあと自習室にこもってもみたけど、思うように暗記が進まない。
いつも颯くんに「おまえのメンタルはオバケかよ」って言われるから、てっきり、自分はなにに対しても心が強いんだと思っていた。
けど、そうじゃなかったみたいだ。
あぁ、このまま、第一の県立短大、落ちたらどうしよう。
颯くんに会うのもセーブして、今まで、がんばってきたと思ったんだけどな。
一応滑り止めもあるけど、やっぱり学費が全然違うから、バイトたくさんしなきゃいけないし。
そうしたら、颯くんのところにお邪魔する機会もすくなくなって。
ますますイケメンになる颯くんのことだから、わたしが深町家に行かない間に、すっかりわたしのことなんて忘れて、クラスにカワイイ彼女なんかできちゃったりして。
一緒にカラオケに行ったり図書館に行ったりしてデートを重ねて、それから、帰り道の別れ際なんかに、ふたりの距離はどんどん縮まっちゃったりしてそれからっ……!
……あぁ、これ以上は想像しちゃだめだ。本格的に気分が落ち込んでくる。
「栗林、帰ります・・・・・・」
自習室の監督の先生にぼそりとそうつぶやいて、とぼとぼと、学校の廊下を歩いた。
あぁ、本当は、颯くんに会いたい。ものすごく会いたい。
どうせ颯くんは「前日に来んなよバカ!」って怒るんだろうけど、それでもいい。むしろ颯くんに怒られたい。
……って。
颯くんもテスト期間なんだってば、わたし。
颯くんの家に突撃したい気持ちをぐっとこらえて、わたしは、自転車にまたがった。
すべては、受験が終わったあとの、颯くんとの明るい未来のため!
そう心を鬼にして、ぐっと力を込めてペダルを踏み込む。
待ってて颯くん! わたし、絶対、受かってみせるから!
そう空元気を出して、学校の前の横断歩道を渡ろうとした瞬間。
わたしの頭の中で、『颯くんセンサー』が、ぴかぴかと点滅をした。そして。
「あ、岬だ。うわ、変な顔」
狂おしいほど聞きたかったその声が、わたしの耳に入ってきた。
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