Ⅱ 岬(高校3年生)

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午後受けた最後の対策授業は、正直、頭に入ってこなかった。 そのあと自習室にこもってもみたけど、思うように暗記が進まない。 いつも颯くんに「おまえのメンタルはオバケかよ」って言われるから、てっきり、自分はなにに対しても心が強いんだと思っていた。 けど、そうじゃなかったみたいだ。 あぁ、このまま、第一の県立短大、落ちたらどうしよう。 颯くんに会うのもセーブして、今まで、がんばってきたと思ったんだけどな。 一応滑り止めもあるけど、やっぱり学費が全然違うから、バイトたくさんしなきゃいけないし。 そうしたら、颯くんのところにお邪魔する機会もすくなくなって。 ますますイケメンになる颯くんのことだから、わたしが深町家に行かない間に、すっかりわたしのことなんて忘れて、クラスにカワイイ彼女なんかできちゃったりして。 一緒にカラオケに行ったり図書館に行ったりしてデートを重ねて、それから、帰り道の別れ際なんかに、ふたりの距離はどんどん縮まっちゃったりしてそれからっ……! ……あぁ、これ以上は想像しちゃだめだ。本格的に気分が落ち込んでくる。 「栗林、帰ります・・・・・・」 自習室の監督の先生にぼそりとそうつぶやいて、とぼとぼと、学校の廊下を歩いた。 あぁ、本当は、颯くんに会いたい。ものすごく会いたい。 どうせ颯くんは「前日に来んなよバカ!」って怒るんだろうけど、それでもいい。むしろ颯くんに怒られたい。 ……って。 颯くんもテスト期間なんだってば、わたし。 颯くんの家に突撃したい気持ちをぐっとこらえて、わたしは、自転車にまたがった。 すべては、受験が終わったあとの、颯くんとの明るい未来のため! そう心を鬼にして、ぐっと力を込めてペダルを踏み込む。 待ってて颯くん! わたし、絶対、受かってみせるから! そう空元気を出して、学校の前の横断歩道を渡ろうとした瞬間。 わたしの頭の中で、『颯くんセンサー』が、ぴかぴかと点滅をした。そして。 「あ、岬だ。うわ、変な顔」 狂おしいほど聞きたかったその声が、わたしの耳に入ってきた。
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