Ⅱ 岬(高校3年生)

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自転車を押しながら、颯くんと並んで歩く。 いつもなら「近寄るな離れろ」って言われるところだけど、今日は言わないってことは、それはつまり……。 「わたしのこと、好き……!?」 「何考えてるか具体的にはわかんないけど、絶対違う」 ちぇっ。わかってるよ、もう! 頬をふくらませていると、颯くんは、ぼそぼそとしゃべり出した。 「岬、明日だっけ。受験」 うっ、一瞬完全に忘れていたのに……! わたしは、力なくこくりと頷いた。 「そう。あーあ、颯くんが頭をぽんぽんってしてくれて、『がんばれ、岬なら大丈夫』って言ってくれたら、がんばれるのになぁ~……」 「……」 「あっ、なんなら、颯くんがちゅーなんてしてくれたら、もう、わたし東大だって受かっちゃうかも……!」 「え、キモ」 「そ、それはさすがに冗談じゃんっ!」 「おまえの冗談はどこまで冗談かわかんないんだよ!」 ま、まぁ、三〇パーセントくらいは本気かもしれないけど! そんなわたしに、颯くんは、はあっとため息をついた。 「どこ受けるんだっけ」 「県立短大の栄養学部」 「栄養? なんで」 颯くんの言葉に、わたしは、えっへんと胸を張る。 「亜希子さんみたいに、颯くんに、毎朝栄養いっぱいの朝ご飯を作ってあげたいから!」 「うわ、最悪、落ちろ、気色悪い」 「ひっどい!!」 相変わらずの塩対応……。 とはいえ、会えたことがもう奇跡なんだ。 わたしはそう自分に言い聞かせる。 判定はCだろうが。最近勉強上手くいってなかろうが。 颯くんの顔さえ見れれば、わたしの元気は百倍っ……! 「……岬、どうかした?」 颯くんにそう言われて、わたしは、はっと我に返った。
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