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自転車を押しながら、颯くんと並んで歩く。
いつもなら「近寄るな離れろ」って言われるところだけど、今日は言わないってことは、それはつまり……。
「わたしのこと、好き……!?」
「何考えてるか具体的にはわかんないけど、絶対違う」
ちぇっ。わかってるよ、もう!
頬をふくらませていると、颯くんは、ぼそぼそとしゃべり出した。
「岬、明日だっけ。受験」
うっ、一瞬完全に忘れていたのに……!
わたしは、力なくこくりと頷いた。
「そう。あーあ、颯くんが頭をぽんぽんってしてくれて、『がんばれ、岬なら大丈夫』って言ってくれたら、がんばれるのになぁ~……」
「……」
「あっ、なんなら、颯くんがちゅーなんてしてくれたら、もう、わたし東大だって受かっちゃうかも……!」
「え、キモ」
「そ、それはさすがに冗談じゃんっ!」
「おまえの冗談はどこまで冗談かわかんないんだよ!」
ま、まぁ、三〇パーセントくらいは本気かもしれないけど!
そんなわたしに、颯くんは、はあっとため息をついた。
「どこ受けるんだっけ」
「県立短大の栄養学部」
「栄養? なんで」
颯くんの言葉に、わたしは、えっへんと胸を張る。
「亜希子さんみたいに、颯くんに、毎朝栄養いっぱいの朝ご飯を作ってあげたいから!」
「うわ、最悪、落ちろ、気色悪い」
「ひっどい!!」
相変わらずの塩対応……。
とはいえ、会えたことがもう奇跡なんだ。
わたしはそう自分に言い聞かせる。
判定はCだろうが。最近勉強上手くいってなかろうが。
颯くんの顔さえ見れれば、わたしの元気は百倍っ……!
「……岬、どうかした?」
颯くんにそう言われて、わたしは、はっと我に返った。
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