Ⅱ 岬(高校3年生)

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「……え、なにが?」 「……いつも『すげー』うるさいくせに、今日は『ちょっと』うるさいくらいだから」 「えっ、そうかな!? 普段通りだよっ。ほら!」 そう言って、わたしは両手をばたばたと動かす。 颯くんは「アホ」とつぶやいて、わたしを置いてすたすたと歩く。 「あっ、ちょっと待って颯くん! せめて最後まで一緒に帰ってよぅ!」 わたしの言葉に、颯くんは一瞬立ち止って、振り向いた。 「……さすがに、明日の朝はウチに来ないよな」 「えっ? あ、まぁ、明日は七時には家を出なきゃだし。緊張しすぎてご飯食べられるかわかんないし」 「良かった、せいせいする」 「うっ、ひどっ……」 そんな風にいつもの会話をしていると、あっという間に、颯くんの家についてしまった。 颯くんはいつも通りに、後ろ手でわたしに手をふる。 「じゃーな。今日は早く寝ろよ」 「えっ、あ、うん! じゃーねっ……!」 それだけ言い残して、颯くんは、家に入っていってしまった。 ばたん、と、無機質に扉が閉まる音がする。 ……せめて、「がんばれ」くらい、言ってほしかったな。 い、いや、それは高望みだ。颯くんと帰れた、それだけで幸せなことだ。 「早く寝ろ」だって、広い意味ではがんばれって意味だよ! がんばれ、わたしっ! そう気合いを入れ直して、わたしは、自転車にまたがった。
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