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「……え、なにが?」
「……いつも『すげー』うるさいくせに、今日は『ちょっと』うるさいくらいだから」
「えっ、そうかな!? 普段通りだよっ。ほら!」
そう言って、わたしは両手をばたばたと動かす。
颯くんは「アホ」とつぶやいて、わたしを置いてすたすたと歩く。
「あっ、ちょっと待って颯くん! せめて最後まで一緒に帰ってよぅ!」
わたしの言葉に、颯くんは一瞬立ち止って、振り向いた。
「……さすがに、明日の朝はウチに来ないよな」
「えっ? あ、まぁ、明日は七時には家を出なきゃだし。緊張しすぎてご飯食べられるかわかんないし」
「良かった、せいせいする」
「うっ、ひどっ……」
そんな風にいつもの会話をしていると、あっという間に、颯くんの家についてしまった。
颯くんはいつも通りに、後ろ手でわたしに手をふる。
「じゃーな。今日は早く寝ろよ」
「えっ、あ、うん! じゃーねっ……!」
それだけ言い残して、颯くんは、家に入っていってしまった。
ばたん、と、無機質に扉が閉まる音がする。
……せめて、「がんばれ」くらい、言ってほしかったな。
い、いや、それは高望みだ。颯くんと帰れた、それだけで幸せなことだ。
「早く寝ろ」だって、広い意味ではがんばれって意味だよ!
がんばれ、わたしっ!
そう気合いを入れ直して、わたしは、自転車にまたがった。
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