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あっという間に、朝が来る。
颯くんが言う通りちゃんと寝ようとしたのに、落ち着かなくって、机で単語帳を開いたまま、変な体勢で三時まで眠ってしまった。
受験前日の過ごし方としては、なかなかに最悪だ。
早くも自己嫌悪に陥りながら、菓子パンの封を開ける。
……でも、一口食べただけで、どうしても、それ以上パンは喉に通っていかなかった。
「岬、いってらっしゃい。がんばってな!」
なぜかお父さんも緊張した顔で、わたしの肩を叩いた。
「……うん。いってきます」
わたしはつい、おんなじ顔になりながら、玄関の扉を開ける。
えっと、駅でお茶とお昼のご飯を調達して、それから、朝もインゼリーくらいは飲んでおいた方がいいかな……。
そんな風に考えながら、アパートの階段を降りていく。と。
……なぜか、わたしの脳内センサーが、チカッと一回、にぶく光った。
「えっ!?」
「うわっ!」
わたしが顔を上げた先、そこには、階段の下で驚いた顔をする、見慣れたメガネの男の子が立っていた。
「そ、そ……、颯くんっ!?」
「しーっ、しーっ!! まだ朝だから!」
颯くんにそう言われて、わたしは慌てて口をつぐむ。
「……おまえ、さっきまで下向いて階段降りてたくせに、なんで急にこっちに気づくんだよ。それこそ心臓に悪いわ」
「だ、だって、せ、センサーが……!」
「はぁ?」
驚きすぎて、言葉がうまく出てこない。
なんで颯くんがウチに!? も、もしかして……。
「……見送りに、来てくれたの?」
わたしの言葉に、颯くんは、ぷいっとあさっての方向を向いた。
「お母さんが、どうしても、持ってってやれって。おにぎりと玉子焼き……」
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