Ⅱ 岬(高校3年生)

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ふわふわとした足取りで、駅の改札をくぐった。 ゆるむ口元を抑えられないまま、電車のボックス席から窓の外を見た。 いつもはしょっちゅう道に迷うくせに、なぜか迷いもせず、勘で試験会場に辿り着いた。 亜希子さんのおにぎりは、試験が始まる前にひとつ食べて、お昼にひとつ食べた。鮭と高菜で、美味しかった。 帰ったら、お父さんが、「よく頑張ったなぁ!」って頭をなでてくれて、すき焼きを作ってくれていた。 ……って、こんな断片的なことは思い出せるけど、カンジンなことは、実はほとんど記憶になくって……。 気付いたら、ベッドに入って、ぼうっと、自分の部屋の天井を見上げていたのだった。 ……本当は、やっぱり、あれ、夢だったのかもしれない。 だって、ありえないじゃん。 颯くんが受験の朝に来てくれて、しかも、わたしに、ち、チューしてくれるなんて。 そりゃ、言ったよ。『颯くんがチューしてくれたら東大だって受かる』とかなんとか。 でも、あれだって、さすがのわたしだって半分くらいは冗談で……。 そこまで考えて、ぼっと、火が出るんじゃないかと思うくらい顔が熱くなる。 いやいや、夢じゃない! 夢になんかしてたまるか! 颯くんが、わたしに、チューをした!! 「ふへ、ふへ、ふへへへへ……」 左の頬を抑えて、布団の中でごろごろと転がった。 窓から差し込む月の光が明るくて眠れない、そんな夜だった。
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