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Ⅲ 颯(高校1年生)
栗林岬。
間違いなくおれの人生は、このヘンテコ女によって狂わされた。
小学六年のあの日、あいつに公開告白されてしまったことが、おれの人生においてこれほどまでに悪影響を及ぼすとは。
今まで味わい続けてきた苦渋を思い返して、真新しい制服のすそを握るこぶしに、ぐっと力がこもった。
まず、あのヘンテコ女の告白から数日後。おれは初恋の相手・山口杏奈に玉砕した。
いや、山口はあの時点で既に三組の遠藤くんと付き合っていたから、別に、直接ふられたワケではないんだけど。
巧たちによってクラスに言いふらされた岬の告白は、いつの間にか山口の耳にも入ったようで。
山口は屈託のない笑顔で、おれに言った。
「深町くん、高校生に告られるとかマンガみたい! 付き合っちゃえばいいのに~」
……それまで二年ほど山口に片思いをしていた身としては、耐えきれないほどの屈辱だった。
しかし、小学校も卒業すればこんな噂は消えるだろうと、淡い期待を抱いて入学した中学。
けれどよく考えたら、うちの中学、ほとんどの生徒が小学校からの持ち上がりだった。
そのせいで、おれが相変わらずあの女に付きまとわれていることを知っている奴らは数知れず。
「深町颯、って……。あー、あの伝説の、体育館公開告白の子!!」
「深町くん、めっちゃ年上の彼女いるらしいよ。なんでも、命の恩人だとか……」
「あっ、あの先輩だよ、あそこのメガネの人。大学生の彼女と同棲してて、朝二人で同じ家から出てくるって噂の……!」
「この前、深町が公園で子どもと遊んでるの見た! もしかして中学生にして子どもがいるのかも……」
……待て待て待て!! どんどんあらぬ方向に噂が独り歩きしてるしっ!!
いくらおれが否定しようが、噂は消えるどころか、どんどん尾ひれをつけて世間という川を遡上していく。
あの、もう、単刀直入に言う。最悪だ。
ここに断言する。おれは岬とは、断じてなんにもない。
……まぁ、気の迷いというか、血迷ったことが、ほんの一瞬だけあったようななかったような気もするが……。
それでも、おれは、こいつの彼氏でも旦那でも、ましてや子どものパパでもないっ! あれはイトコの子と遊んでいただけだ!
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