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入学式が終わって、父さんと母さんに先に帰ってもらったあと、案内された教室に向かう。
さっきから周りのやつの顔を見ているが、知っている顔は見当たらない。
なんならたまに、ばちっと、知らない女子と目が合う。
そんなときは、にこっと、微笑みかけてみる。
とたんに顔を赤くする女子たちを見て、「これはイケるかも」と、心の中でガッツポーズをした。
と。
「あの……、深町くん?」
教室で、とつぜん、背後から女の子にそう呼ばれる。
早くもおれの名前が女子に知れ渡ったかなと、浮かれながら「なに?」とふり向いた先……。
その声の主を見て、おれは、息の仕方を忘れるくらいの衝撃を受けた。
まん丸な目、色白の肌。三年前までと変わらない、胸までおろした猫っ毛のロングヘアー。
「……あ、え、もしかして……」
そんなおれの反応を見て、彼女は、にこっとうれしそうに笑った。
「あ、やっぱり深町くんだ! 覚えてる? わたしわたし、山口杏奈!」
終わった。
なにもかもが全て、終わった。
自分の席にへたりこむおれを見て、山口は、あのときと変わらない笑顔であははと笑う。
「えっ、なに、驚きすぎでしょー! 三年ぶりだね、元気だった?」
山口は、おれたちとは違う別の私立中学に進学していた。
内部進学もできたはずなのに、なんでこの高校に……!
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