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「マジでごめん、山口……」
「あ、いや、別に……」
帰り際には、おれと山口を囲む形で、早くもクラスメイトは謎の団結力を見せていた。
担任も「三十年近く教師をしてきて最初からこんなにクラスが仲良しなのは初めての快挙」だと、太鼓判を押すほどだった。
それからクラスメイトたちに背中を押されるように、おれと山口は、並んで最寄り駅まで歩いていた。
……そこかしこからの、視線が痛い……。
ってか。
「そもそも山口って、遠藤くんと付き合ってるもんな。ごめん、なんか巻きこんで……」
そうだ。山口杏奈は、「三組の遠藤くん」の彼女じゃないか。
なにを血迷って、あんなこと口走ったんだ、おれってば。
自分の言動に憤りを感じていると、山口は、やたらあっけらかんと答えた。
「遠藤くんなんか、とっくに別れたよ?」
「えっ」
「えっ」
「……マジ?」
「マジマジ!」
山口はそう言って、あははと笑う。
「あんなの、小学生のおままごとじゃん! ハツカレにだってカウントできないよー」
「そ、そういうもんなの……?」
「そういうもん! てか、あのとき、遠藤くんが告ってきたから、なんとなくいいよって言っただけだし」
そう言って、山口は、一瞬だけおれと目を合わせた。
それから、なぜか気まずそうに、パッと目をそらして、急にボソボソと喋り出す。
「……なんなら小学生のとき、わたしの方こそ……」
「え、ごめん、聞き取れない……」
「あ、いや、なんでもないっ! わたし、楽器屋さん寄らなきゃだから! じゃ、これからよろしくねっ、えっとー……、颯っ!」
そう言って、山口はひらひらと手をふって、駅の商店街の方へと歩いて行った。
……おれはといえば、彼女のその様子に、心の底から舞い上がってしまっていた。
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