Ⅲ 颯(高校1年生)

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帰りの電車に揺られながら、おれは右手をあごにあてる。 緊急事態だ。これは、作戦をプランBへと移行せざるをえない。 すなわち……、今度こそ、山口杏奈を彼女にするっ!! おれの少なすぎる経験からいっても、あの山口が言いかけた言葉といい、あの態度といい……、きっと、いやおそらく、山口はおれにいくらかの好意を抱いているはずだ。 待ち望んでいた同級生の彼女、しかも、相手はあの山口杏奈と来た! あぁ、放課後制服のまま一緒にカラオケ行ったり図書館でデートしたり、それから、帰り道近所まで送っていったとき、ふたりの距離はどんどん縮まっちゃったりしてそれからっ……! 「あれ、颯くん!?」 「うわっ!! は、え、み、岬!?」 「え、なに、そんなに驚いて。ここ、大学の最寄り駅だもん。はっ、そうすると、これからもこうやって、偶然電車で帰れちゃうチャンス……!?」 「……」 「え、ちょっと、無視やめてぇ!?」 岬は口をとがらせながら、おれの隣の席に座る。 電車はいつの間にか、次の駅に着いていた。 岬、悪いな。おれ、彼女出来ちゃうかも。 おれの隣で楽しそうに「今日大学でね~」なんて話す岬に、ほんのちょっとだけ、同情してやった。
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