Ⅲ 颯(高校1年生)

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それからの高校生活は、まさに、パラダイスそのものだった。 岬のことで、いじってくる奴はもういない。 おれのことを、ガリ勉メガネと茶化すやつももういない(中学のときは、ここの高校に来るために勉強しすぎていた)。 それよりなにより、クラスメイトたちの粋な働きかけによって、おれとあの子は、おんなじ図書委員会に……! 「颯! 今日の部活ミーティングだけになったから、一緒に委員会の買い物行けそう!」 「そっか、良かった。じゃあ、昇降口のベンチで待ってる。ゆっくりでいいよ、杏奈」 ……なにこれ。 なにこれ、なにこれ、なにこれっ!! こんな甘酸っぱい会話、ほんとにおれがしてるのか。しかも、山口杏奈とだぞ!? 『巧、おれ、彼女できそう』 杏奈を待っている間、暇だったおれは、買ってもらったばかりのスマホで巧にラインするくらいには、浮かれまくっていた。 「颯、お待たせ~! 隣駅の文房具屋さんでいいよね!」 「おぉ。あそこ、全部二十パーセントオフだもんな」 図書委員は、今学期、おすすめの本のポップを作ることになっていた。 その画用紙やらの調達を頼まれたおれたちは(というか、おれが若干の下心を持って引き受けた)、隣駅のショッピングモールまで、電車に揺られてやってきた。 こんなとき、帰り道も同じ方向なこと、すごくいいと思った。 「颯、昔から怖い本とか好きだよね。じゃあ、画用紙は黒多めの方がいいかな」 「杏奈が好きなのは恋愛系だろ。ピンクもたくさん買っとけば?」 「あー、どっちかといえば、わたしは青春の泣けるヤツが好きだから、水色かも!」 そんな会話をしながら、ショッピングモールを並んで歩く。 あー、やばい。これ、すごくデートっぽい。 じーんと目に来るものが……って、あれ……。
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