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それからの高校生活は、まさに、パラダイスそのものだった。
岬のことで、いじってくる奴はもういない。
おれのことを、ガリ勉メガネと茶化すやつももういない(中学のときは、ここの高校に来るために勉強しすぎていた)。
それよりなにより、クラスメイトたちの粋な働きかけによって、おれとあの子は、おんなじ図書委員会に……!
「颯! 今日の部活ミーティングだけになったから、一緒に委員会の買い物行けそう!」
「そっか、良かった。じゃあ、昇降口のベンチで待ってる。ゆっくりでいいよ、杏奈」
……なにこれ。
なにこれ、なにこれ、なにこれっ!!
こんな甘酸っぱい会話、ほんとにおれがしてるのか。しかも、山口杏奈とだぞ!?
『巧、おれ、彼女できそう』
杏奈を待っている間、暇だったおれは、買ってもらったばかりのスマホで巧にラインするくらいには、浮かれまくっていた。
「颯、お待たせ~! 隣駅の文房具屋さんでいいよね!」
「おぉ。あそこ、全部二十パーセントオフだもんな」
図書委員は、今学期、おすすめの本のポップを作ることになっていた。
その画用紙やらの調達を頼まれたおれたちは(というか、おれが若干の下心を持って引き受けた)、隣駅のショッピングモールまで、電車に揺られてやってきた。
こんなとき、帰り道も同じ方向なこと、すごくいいと思った。
「颯、昔から怖い本とか好きだよね。じゃあ、画用紙は黒多めの方がいいかな」
「杏奈が好きなのは恋愛系だろ。ピンクもたくさん買っとけば?」
「あー、どっちかといえば、わたしは青春の泣けるヤツが好きだから、水色かも!」
そんな会話をしながら、ショッピングモールを並んで歩く。
あー、やばい。これ、すごくデートっぽい。
じーんと目に来るものが……って、あれ……。
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