Ⅲ 颯(高校1年生)

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「やばい、コンタクトずれた、いたたた……」 「えっ、コンタクト? そこ座ろう。鏡いる?」 「あ、ありがとう……」 おれは左目をつぶりながら、エスカレーターの横のベンチに腰かける。 杏奈が差し出す鏡を見ながら、左目のコンタクトをつまんだ。 ワンデーの使い捨てコンタクトは、体育のサッカーのせいか、細かい砂のようなホコリが無数についている。 残念だけど、もう、つけられないなこれ……。 そう思って、おれは、右目のコンタクトもとって、かばんから取り出したメガネをかけた。 と。 「……あれ、颯、メガネなんてかけてたっけ? なんか変な感じー!」 あ、そうだった。そういえば、小学校のときはかけてなかった。 「うん、中学で一気に視力落ちて、メガネないとだめになっちゃって……」 「ふーん。なんか雰囲気すっごい変わるね。ガリ勉みたーい」 が、ガリ勉って! 若干おれの黒歴史が呼び覚まされたけど、ま、杏奈になら茶化されてもいいかな。 「ちょっと、それ、どーゆー意味だよー」 「あたしは、メガネない方が好きかもなー」 おれの心臓が、どくんと一回大きく脈打つ。 え、杏奈、今……、す、好きって言った!? 「……あ、そう、おれも。メガネの自分、なんか急に賢そうに見えちゃうから嫌いでさ! 別に大して頭いいわけでもないのになー!」 「あはは、うけるー!」 動揺を必死に隠しながら言った早口に、杏奈は小さく手を叩きながら笑う。 あ、でも、メガネない方がいいんだもんな。ワンデーの替え、持ってたっけか。 そう思ってカバンを探ろうとすると、おれのメガネの端っこに、なんだか見慣れた顔が映ったような気がした。 とっさに、前を向く。 「なっ、み、みさっ……!?」 するとそこには……、おれを見ながら固まっている、岬がいた。
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