Ⅲ 颯(高校1年生)

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そんな岬の顔を見て、おれの心臓が、ぎゅっと、つぶされたような感覚になった。 「……ん? どうしたの、颯」 固まるおれに異変を感じて、杏奈がおれに話しかける。 「えっ、いや、別に……」 「えっと、この女の人、もしかして……」 や、やばい。なんかよくわかんないけど、やばい。 サイアク、岬、泣きながら走り去るなんてことも……。 そんな考えをめぐらせていると、岬は、おれたちに向けてにこりと笑った。 ……って、え? 笑った? 「初めまして! わたし、颯くんのいとこの岬って言います。なに、颯くん、今日はデート?」 「……え? あ、いや……」 「もー、照れちゃって! こんなカワイイ子をデートに誘うなんて、隅に置けないなぁ、まったくっ!」 「なっ、おまっ……」 「じゃ、今度恋バナ聞かせてねぇ~。じゃーねー!」 そう言って、岬はひらひらと両手を振った。 な、なんなんだ、あいつ……。 しばらく呆然と岬が消えていったエスカレーターの方を見ていると、ぽんぽんと、突然杏奈に肩を叩かれた。 「……颯、大丈夫?」 「……え? あ、コンタクトのことなら、もう取ったから大丈夫……」 「うそー。なんか、まだ、痛そうな顔してるけど?」 「……は?」 「ほら」。杏奈はそう言って、持っていた鏡を差し出す。 するとそこには、眉間にシワをよせて、ひどい顔をした、メガネの男子高生が写っていた。 「……岬さんって、あの、岬さんだよね」 「あの?」 「ほら、颯が昔告られた、あの……」 そ、そうだった。 顔は知らないにしても、巧があれだけ言いふらせば、山口杏奈がその名前を聞いてないわけないよな……。 「……追いかけなくて、いいの? なんか、誤解してるみたいだけど」 「な、なんでおれが、あいつのことなんか」 そこで、山口杏奈は、はぁっとひとつ深くため息を吐く。 そして、すうっと今度は、息を大きく吸い込んで……。 「そんな顔でなに言ってんだ、ばーか」 「……は?」 そこで。山口杏奈は、びしっと、おれを指さした。 「追いかけろ、ばか者」
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