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そんな岬の顔を見て、おれの心臓が、ぎゅっと、つぶされたような感覚になった。
「……ん? どうしたの、颯」
固まるおれに異変を感じて、杏奈がおれに話しかける。
「えっ、いや、別に……」
「えっと、この女の人、もしかして……」
や、やばい。なんかよくわかんないけど、やばい。
サイアク、岬、泣きながら走り去るなんてことも……。
そんな考えをめぐらせていると、岬は、おれたちに向けてにこりと笑った。
……って、え? 笑った?
「初めまして! わたし、颯くんのいとこの岬って言います。なに、颯くん、今日はデート?」
「……え? あ、いや……」
「もー、照れちゃって! こんなカワイイ子をデートに誘うなんて、隅に置けないなぁ、まったくっ!」
「なっ、おまっ……」
「じゃ、今度恋バナ聞かせてねぇ~。じゃーねー!」
そう言って、岬はひらひらと両手を振った。
な、なんなんだ、あいつ……。
しばらく呆然と岬が消えていったエスカレーターの方を見ていると、ぽんぽんと、突然杏奈に肩を叩かれた。
「……颯、大丈夫?」
「……え? あ、コンタクトのことなら、もう取ったから大丈夫……」
「うそー。なんか、まだ、痛そうな顔してるけど?」
「……は?」
「ほら」。杏奈はそう言って、持っていた鏡を差し出す。
するとそこには、眉間にシワをよせて、ひどい顔をした、メガネの男子高生が写っていた。
「……岬さんって、あの、岬さんだよね」
「あの?」
「ほら、颯が昔告られた、あの……」
そ、そうだった。
顔は知らないにしても、巧があれだけ言いふらせば、山口杏奈がその名前を聞いてないわけないよな……。
「……追いかけなくて、いいの? なんか、誤解してるみたいだけど」
「な、なんでおれが、あいつのことなんか」
そこで、山口杏奈は、はぁっとひとつ深くため息を吐く。
そして、すうっと今度は、息を大きく吸い込んで……。
「そんな顔でなに言ってんだ、ばーか」
「……は?」
そこで。山口杏奈は、びしっと、おれを指さした。
「追いかけろ、ばか者」
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